第28章 秋の夜長に春ひとつ
「…ご馳走さま」
「…あ、あのっ」
食事を終えゆっくり立ち上がる彼に
声をかけていた
「…?お代、ここに置いてるよ?」
声を掛けたのに次の言葉がないことに
不思議そうに俺を見つめる瞳
「そ、そうじゃなくて…」
「…僕のこの足のこと?」
右足を軽く撫で付けて
困ったようにふふっ…て微笑んだ
「さっき、話してたもんね?」
「…す、すみません…」
「いいよ、ほんとのことだし…」
頭を下げたまま
声を掛けた本題を口にできない
…彼にとって見ず知らずの俺が、
何を頼もうとしてんだよ……
ラーメンを食べてる間
ずっとどうしようか悩んでた
――絶対味覚――
そのチカラを借りて、親父さんのラーメン…
完全再現させたい、なんて…
どうやって切り出せばいいんだ…
「…あの、さ…」
言いにくそうに詰まらせる言葉に
俯いていた顔をあげると
なぜか彼は困ったような表情で…
「呼び止めてすみ……」
「この味…親父さんの味と違うよね?暖簾も変わってないから親父さんの味を継いでると思ってたんだけど、店の名前だけ貰ったの…?」
慌てて謝ろうとした言葉に
思いがけない言葉が重なった