第28章 秋の夜長に春ひとつ
「ど、どゆことだよ?」
「ニュースではね…歩道橋の上から突き落とされたとかなんとか…」
思ってもいない物騒な言葉に
食いぎみに聞き返せば
また思ってもない言葉が返ってきた
スマホに視線を落としてる
姿を見つめると
その人はテレビの中と変わらず
穏やかな感じの物腰の人で
テレビではカチッとキメてた髪型が
自然に下ろされたままなのも
穏やかさの中に柔らかさも見える
やたらニコニコしてる…
なんてタイプではなかったけど
恨まれるタイプじゃなさそうなのに…
なぜそんなことになったのか、なんて
考えても仕方ないけどやけに気になって
気付かれないのをいいことに
見つめ続けてると
「ぁあっ!時間やっばい!ごめんね、かず!俺もう戻るね!」
腕時計を見て
慌てた雅紀が麺を勢いよく啜って
俺の背中を力一杯叩くと
突風のように去っていった
横を通りすぎていったのに
顔をあげたその人と目が合って。
そそくさとカウンター奥に逃げ込んだ
お客さんなんだから
ちゃんとしなきゃ…
少しばかり慌てる手元で
麺をザルに放り込んで
またチラリと視線だけ上げて
彼を盗み見た
あんな足で…今どうしてんだろ……
投げ出された曲がらない足を
たまに優しくさすってる彼の前に
出来たラーメンを静かに置いた