第28章 秋の夜長に春ひとつ
座り辛そうにしているのを手伝うと
穏やかな笑みを浮かべた男性
なぜかその笑顔だけで
沈んでた気持ちが軽くなった気がした
オーダーを頂き戻ると
カウンターへ入ろうとする瞬間
ぐいっと引っ張られた
「な、なんだよ雅紀…」
「なぁ!なんであの人ここに来てんのっ??」
馬鹿力で無理やり引き下げられて
耳元でこしょこしょっと話してくる
「え、なに…雅紀あの人知ってるの…?」
「知ってるもなにも…っ…」
チラチラと男性に目配せして
「あの人絶対味覚のプリンスで有名の!大野智じゃん!」
耳元で聞いた言葉に
慌てて視線を男性に向ける
ポスターを見つめる横顔に
前から感じていた
どこかで見たことあるって思ってた、
引っ掛かっていたものがはっきりして
…そうだ、あの人……
テレビ番組でよく見る
料理人…だ………
仕込みをしながら
つけっぱなしにしていたテレビ
朝のバラエティー番組で
楽しそうに料理解説をしていた人…
「あ、あれ?でも…最近テレビ出てる…?」
平日の帯番組で
レギュラーだったはずだけど。
…最近見かけてない気が……
俺がふいに投げかけた言葉に
雅紀がすこし困ったように眉を下げる
またチラリと視線だけで彼を一瞥して
さっきよりも小さな声で
「出てないよ…かず知らないの…?あの人、誰かに襲われて入院してたって…」