第28章 秋の夜長に春ひとつ
…そう……なんだよな…
わかりきってたことだけど、
認めたくなかった言葉が…
ずっしりと…
心にのし掛かった
親父さんのレシピ通りに
何回、何十回、何百回……
作っても作っても…
大好きだったあの味を
この一年舌で味わえたこと、
1度たりともなくて…
俺のエゴで続けてきたけど…
親父さんの味…残したい一心で
やってきたけど……
再現もできねぇ…
こんな状態じゃ……
もう、潮時…なの……かも…
「…か、かず…ごめん、俺…」
「いや、ありがとう雅紀…」
慌てる雅紀をやんわりと制して
込み上げてきた悔し涙を拭った
「…店、閉めるか……」
親父さんの店をこれ以上…
汚(ケガ)したくない…
俯いたまま、ぽつりと言葉を溢すと
カラカラ…と渇いた音がした
「らっしゃ……」
条件反射に挨拶をしながら
顔を上げると
「…あ……」
そこにいたのは
腐りそうになってた、
へこんでたあの時……
スープを飲み干したその人で
遠慮がちに覗きこみながら
ぺこりと頭を下げた
「今、行ける?」
「…は、はい…どうぞ…」
杖を片手に入りにくそうにしている彼に手を差し伸べに駆け寄って
この前と同じテーブル席にご案内した