第28章 秋の夜長に春ひとつ
「…かずっ」
「………」
「かずってばっ!!」
「……………」
「もう!かーずーーーっ!!」
「…お?」
「お?じゃないよ!なにボーッとしてるんだよっ!」
平日の昼下がり
あまりの暇さにトリップしていた意識が
腐れ縁な親友の大きな声で引き戻される
あの男性が綺麗に完食してから
気持ちもノッて
テンション高めにやってきたのも
たった数日で。
店内は以前と変わらず
閑古鳥が占めていて…
「…はぁあ……」
「もう!溜め息とか辛気くさいなぁ…そんな仏頂面してたらお客さんもっと減っちゃうよ?」
「…うるせぇ」
「常連客になんて口きくんだよー!お昼休憩の時間もあるんだから!早く!ラーメン!!まーくんお腹ぺっこぺこなのーー!」
「…わぁったよ、すぐ作るわ…」
的確な指摘に気を取り直して
急かすようにカウンターを
バンバンと叩くやつを黙らせるため
重い体を無理やり動かす
こんなに客が来ないなんて、
何が悪いんだろ…
「あぃよ、お待たせ…」
「きたきた♡いただきまーす♪」
手を合わせるとすぐ食べ始めた雅紀を
じぃい…と見つめる
「…んぁ?何?俺の顔になんかついてる?」
「いや…旨い…よな?」
「うん、旨いよ?でも…」
咀嚼の途中で少し濁した言葉に
自然と体が前のめりになる
「……でも?何?」
「親父さんの味とはどっか…違うんだよな…」