第28章 秋の夜長に春ひとつ
…っ……
ただ味わってるのを
見ているだけなのに
息が詰まってくる
何かしらのアクションがあるかな…
と期待して見ていたのはつかの間
たった1人の客は
勢いよく啜った麺を
ただ静かに味わっては
また麺を啜っていくだけで
…な、なんも言わねぇ……
表情もひとつ変えず
無心に味わう姿で不味くて無理…
て反応じゃないのはわかるけど…
今後の参考に何かしら…
感想、聞きたい…けど……
どんぶりにかぶりつくように
食べている人に声なんて
掛けられるはずもなく。
「ご馳走さま、ここにお代置いておくね」
「あ、ありがとうございました~…」
気付けば完食していた男性が
静かに席を立って出ていくのを見送っていた
「…あ」
綺麗にスープ…
飲みきってる……
嬉しさに小さなガッツポーズして
どんぶりとお代を回収して
足取り軽く、カウンターに戻る
感想聞けなかったけど…
これが…答えだよな…
ここ最近のへこみっぱなしだった
気分がだいぶ軽くなって
自然と鼻唄をしながら片付けて
お客さんが来るのを待ち構えていた
…けど、それから客足は
パタリと止まって…
今までの俺なら
へこんでた気がするけど。
今日はいいことあったもんな…
「また明日、頑張ろう…」
寒い夜風を感じながら
暖簾を静かに片付けた