第28章 秋の夜長に春ひとつ
「…お待たせしました」
テーブルの上に出来立ての
ラーメンのどんぶりを置く
確かに見たことあるのに、な…
作りながら脳細胞をフル稼働したけど
ぜんっぜん、思い出せなくて…
湯気を隔てて
その思い出せない顔を凝視する
前の職場関係…?
どんぶりに視線を落としてるのを
見つめながらまた記憶を巡らす
…も。
いや、違うな…
それほど身近な人物なら
記憶に残ってるはず……
なら、誰だ…?
急に上がった視線がばちっと合って
「あの…僕に何か?」
「あ!いえっ…すみません、ごゆっくり…」
訝しげに聞く彼に頭を下げて
慌てて席から離れた
「いただきます…」
手を合わせて軽く頭を下げてる姿を
カウンターから見つめる
…綺麗な所作すんだな……
割りばしを割る動作ひとつ
何故かそれも綺麗で
もしかして美食家、とか?
テレビに出てたとか…?
まだ思い出せない記憶を辿るため
見つめ続ける
レンゲでスープを掬って
やけに真剣に見つめてる…
…同業者?
……それか有名なラーメン通…?
うーん…思い出せそうで思い出せない…