第28章 秋の夜長に春ひとつ
扉の奥
ガラス戸の隙間から
微かに漏れる……明かり
引き戸に手をかけ
ゆっくり引いて
静まり返る暗い店内を
明かりに向かって歩く
近づけば微かに何かの音が聞こえてきて
変な緊張感を覚えながら
厨房が覗ける位置に辿り着くと
「…お袋、さん……?」
見慣れた割烹着姿の背に
恐る恐る声を掛けた
振り向いたお袋さんの目が
やけに赤くて…
「かず、く…っ……」
「ど、どうしたの?泣いてたの…?」
慌てて近づいた俺に
細い腕が背中に回ってきて
震える体に俺も自然と手を回した
腕の中
震える背をしばらく優しく撫でて
落ち着いた頃に聞こえた
嗚咽混じりの声は
想像していなかった言葉だった
…親父さんが…亡くなった……?
いつものように忙しくしていた
昼の書き入れ時
あわただしく料理を運んだあと
厨房を覗きこんだときには
倒れてた…
病院に運んだけど、
助からなかった……
溢れる涙でしゃくりあげながら
辛さや寂しさ、悔しさを滲ませる声で
伝えてくれたお袋さんを
俺はただただ…
何も言葉をかけることができないまま、
目尻に浮かんだ涙を堪えながら
力一杯抱き締めた