第28章 秋の夜長に春ひとつ
「………つかれた…」
ビルから1歩出て
すっかり暮れた空にひとりごちる
残業なし、好条件!
それで選んだはずなのに
「…騙された………」
深い溜め息をつきながら
オフィスのある階を軽く睨み付けて
重怠い体を駅へと向ける
得意分野の仕事で選んだ職種
初めは感じていた楽しさも
半年も経てば義務的にこなしてる感じになってきて。
入社一年未満のサービスエンジニアなんて
そりゃこき使われるもんなんだろうけどさ…
実働13時間とかもうブラックだろ…
フラつく足取りで電車に乗って
心地よい揺れに眠気を感じはじめた頃
最寄り駅のアナウンスに意識を戻して
慣れた構内に降りるとまた
重い足で歩き始める
駅前の店は軒並閉まってて
人気も外灯も少ない暗い道のり
軽く寒さを感じる秋風を感じながら
マイペースにとぼとぼ歩いていたら
遠くに見えてきた親父さんの店
時計を見るとまだ21:46で
「もうすぐ閉店だけど、
食わせてくんねぇかな~…」
疲れた体にあのラーメンの味を染み込ませたくて
少し軽くなった足取りで
扉の前に着いた時…
いつもならそこで揺れているはずの暖簾が掛かっていない