第1章 カクテルに想いを乗せて
「…で?今回はなんでフラれたの?」
ジャズが流れるお気に入りのバー
俺たち2人しかいない貸切状態の中、隣に座る翔さんに話を振る
いつも通り、相談役の役割を全うするために
「前と一緒…」
一言、そう告げるとカクテルグラスを口付ける
何人か前に、別れた彼氏に言われた一言…今回もそれが原因のようだ
「なんでかなぁ…みんな俺のこといい子ちゃんに見過ぎだよ…」
「実際いい子じゃん、翔さん」
「改めて言われると照れるな…」
少し酔いが回ってきたのか頬を赤らめてふふっと笑う
「俺の我儘、なのかなぁ…おねだりするの…」
カクテルを飲み干し溜息をつく
翔さんがフられる原因…それはベッドの中で豹変すること
セックスの時、絶倫なのだそうだ
満足するまでもっと、とねだり続けるらしい(酔っ払って漏らした本人談)
翔さんは空いたカクテルグラスをマスターに返し
「テキーラ・サンセット、もう一杯ください…」
いつもの『慰めて』という意味のカクテルを注文する
「まだ慰めて欲しいの…?」
俺の手元にあるカクテル、ベルベット・ハンマーの意味は知らないようだ
いつも相談に乗るときにこれで伝われば、と思いながら頼むが彼はその意味を知らないようで何も反応がない
「だって…」
カクテルを受け取ると一気に流し込む
「ぜんっぜん傷が癒されないんだもん…」
その言葉に胸の内にしまってあった言葉を投げかけてみようと決心する
「ねぇ、翔さん?」
「……ん〜…?なに?」
空いたグラスを手にしたまま少し座った目線がこちらを見据える
「恋で負った傷を癒すのには新しい恋がいいんじゃない…?ね、俺と恋…しない?」
顔を近づけて翔さんだけに聞こえるように耳元で囁く
すぐに反応がないから少し離れて顔を覗き込むと泳ぐ視線でとまどったような顔
あ、これはやってしまったかも…
慌ててなかったことにしようと訂正の言葉を口にする
「なーんて…」
「いいよ…」
言い終える前に言葉が被さる
「えっ…」
「いいよ…松潤が、その……いい…なら…」
驚く俺をよそに先ほどとはうって変わってまっすぐ俺を見つめる潤んだ瞳
その瞳を見つめているとスッと立ち上がり2人分のお会計をしていく
「え、翔さん…っ?」
「松潤…行こ?」
少し足元のふらつく翔さんに手を引かれてバーを後にした