第23章 君がいいんだ
シャンパンを軽く体に流し込んで
智くんの用意してくれたディナーに視線を落とす
コーン入りのクリームシチュー
ベビーリーフとプチトマトで彩られた
クリスマスリースのようなサラダ
最近ハマってるホームベーカリーで作ったパン
照りがきれいなローストチキン
今朝クリームシチューを作ってたのは知ってたけど
ローストチキンまで作ってくれていたなんて…
僕が仕事に行ったあと1人で頑張ってる智くんが目に浮かんで
チキンを取り分ける智くんの手を握った
「どうしたの?」
「こんなに…ありがとう…」
「どういたしまして♡」
《特別な日だから、ね…♡》
キャンドルの光で
さらに柔らかく見える智くんの笑顔と
甘く囁くような心の声に
胸の奥がきゅんって音を立てた
食べはじめてもそのきゅんきゅんは収まらなくて
「…だ、だいじょうぶ……?」
料理を吸い込むように全部平らげて
シャンパンもガバガバ飲んだ僕はソファに体を投げ出していた
僕を見下ろす智くんの眉はきれいな八の字で
呆れてるようにも悲しそうにも見えて
イヴなのにこんなになっちゃって…申し訳ない…
心の中で呟いて垂れてると空いてたソファに腰掛けて
僕の頭を優しく撫でる
《無理して全部食べるからぁ…》
口角が上に少し角度をつけた表情に少し安堵して
目を閉じて智くんの手の感触にだけ意識を向けた
気持ちいい…
「……………?」
胃も少し落ち着いてきた頃
手の感触がふっと無くなって
閉じてた目を開けると教科書を智くんが真剣に読んでいて
ようやく体を起こせた僕が座り直して
それを横からチラッと覗き込んだ
もうすぐ卒業試験って言ってたっけ…
「もう大丈夫?」
「うん…無事、試験乗り切れそう?」
「どうかなぁ…僕筆記は苦手だから…」
実技は申し分ないもんね
智くんはトリマー資格取得の専門学校に通ってて
土曜日だけうちの病院に来る子たちや施設の子のお手入れをしてくれるんだけど
まぁ手先が器用で
ベテラントリマーさんの腕と引けを取らないほど。
飼い主さんが土曜日に集中するようになったのは
絶対智くんの腕がクチコミで広がったからだと思う
学校では実技だけよくてもダメだからって
毎日こうして家でも教科書を見る智くんを
僕はいつも隣で見ていた