第23章 君がいいんだ
考えたことがないわけじゃない
気持ちが通じたあの日から
そうなればなぁ、なんてちょっと妄想したけど
目の前の智くんは時が止まったように
顔を引きつらせたまま動かない
明らかに困惑している
その様子に甘く考えてた妄想を頭から振り払って
智くんが望まない限りは…しない
いや、出来ないよ…
本気で好きだから…
君の気持ちを大切に、したい
どうこの空気を変えようかと考えを巡らそうとした時
智くんが距離を詰めてきて
ぎゅっ…て抱き着いてきた
《雅紀さんに…任せる……》
そう言って僕にしがみつくようにして
肩口に顔を埋めた
押し黙り僕に回された智くんの腕は小刻みに震えてる
「智くん…僕に任せる、って聞こえたけど…
君の本音は?ちゃんと口で言って?」
自分よりも他人を思う智くんのこと…
きっと本音は…違うはず
この震える腕が答え、でしょ?
口では優しい言葉を言って
心の中で嘲笑うようなことを考えてる人間は多く見てきた
でも君は、口でも心でも。
人を思って…隠したり、嘘をつく人……
そういう優しいところに惹かれたけどさ…
「僕には、本音を言って…?」
もう一度念押しして
滑らかな頬に触れて俯く顔を上を向かせる
水分を多く含んだ目は揺れていた
「ぼ、僕…」
《言って…いいのかな》
「言っていいよ?ちゃんと言って?」
優しく頭を軽くポンポンってすると
張り詰めてた表情がふっと緩んで
やっと本音を口にした
「ほんとは…怖い…」
「…うん、それでいいんだよ?」
僕の言葉に腕の中で少し慌て、
背中を掴む手が震え出す
「で、でも…っ…
雅紀さんがしたい、なら…いいよ…っ?」
「…智くんは怖いって思ってるのに?」
「でも…」
《…嫌いに、ならない…?》
今にも泣きそうな顔をした智くんの
細い体を抱きしめた
安心させるように
優しく……包み込むようにギュッと
僕の気持ちをいっぱい込めて抱きしめ続けて
震えが収まった体が少し離れると
僕たちは見つめあったあと
ゆっくり目を閉じて唇を重ねた