第23章 君がいいんだ
「そ、そんなに前から…」
知らなかった…
「うん…だからね?
偶然雅紀さんに助けてもらって。
毎日雅紀さんの側にいられて、楽しかった」
やばい、すごく…嬉しい……
嬉しさを噛み締める僕を見つめる目が
少し色っぽくなったように見えた
「…だから僕でよければ、あげる」
コートの裾を引っ張られて
前のめりになると柔らかな感触が唇をすっと掠めていった
俯いた智くんはまた顔が赤らんでいて
「…キス、しちゃった…/////」
さっきの大胆さとは違う言葉に可笑しくなった
「智くんてば意外と大胆なんだね」
「ま、雅紀さんにだけ、だよ…」
恥ずかしさからか寒さからか少し震える智くん
パーティー、楽しみだな…
そう思いながら街並みを進んでいくと
あっという間にアパートが見えてきて
ブロック塀の前に誰かがいる…?
「智くん…!」
「あ、おばちゃん…」
智くん親子のことを教えてくれたおばさんが
駆け足で近づいてきてくれた
智くんの父親はあの事件で
逮捕、勾留されて罰金刑を受けて
今は精神治療のため、専門病院に入院している
毎日智くんのお見舞いをする僕に
このおばさんが手紙を見せてくれた
『智には本当に申し訳ないことをしました。
きちんと治療してから、
智が許してくれるなら迎えにいきます。
許してくれない場合は…智の面倒を見てもらえませんか』
ずっと家族ぐるみで仲良かったおばさんが受け取った手紙
目覚めた智くんにこれを見せた時
迷うことなく父親が帰ってくるまで待つことを選択した
治療にどれだけの時間がかかるかわからないから
しばらくは部屋に一人かもしれないけど
おばさんと話す智くんは元気に笑っていた
寂しいはずなのに、君は本当に優しいね
「じゃあ、僕はここで。智くん、またね?」
おばさんに頭を下げて自宅に足を向けた時
「雅紀さん!パーティー、24日でいいの?」
「うん。場所はどうしよう?」
「…うーん…雅紀さんち行きたい!」
「…りょうかい」
じゃあ、と手を振って歩みを進めた
来週を心待ちにしながら
Green islandに寄ると
静かだった施設内が少し騒がしくなる
みんな智くんの心配してたもんね
「ただいま、智くん無事に退院したよ」
銘々に吠えるみんなに報告をすると
みんなの声がさらに大きくなった