第23章 君がいいんだ
「やけに騒がしいな…」
のどかな街にサイレンが鳴り響く
パトカーのサイレンか
救急車のサイレンか…
何台もの音が重なってくる
「あ、ちょっと!雅っ…」
走り出したから急に引っ張られて
リードを離しそうになるのをこらえる
「もぉ!なんだよ急に…っ…」
全力で引っ張られて
着いたのは小さなアパート
その前にパトカーと救急車が止まってて
野次馬のようにたくさんの人が周りにいた
「どうしたんだよ、雅…っ」
《雅紀…あれ………》
抱き上げた腕の中で雅が目線を向ける方に目線を移す
「………!!」
見えたのはストレッチャーに乗せられてる智くんで
「すみません!僕その子の知り合いなんです!」
人混みを掻き分けて救急隊員のもとに寄る
離れてよく見えなかった智くんの顔は
青白くなっていて
白いシャツに鮮明な赤が広がっている
「智くん、智くんっ!!」
肩を掴んで揺さぶるも反応がない
心の声も聞こえない
だらりと落ちた右腕
途端に視界が白黒に染まる
「智くんっ!智くん起きてよっっ!」
「傷口が広がるからやめてください!」
制止されるのを振り切って揺すると
頬に走った痛み
「雅紀…!落ち着きなさい!」
「父さん…っ」
「雅は私が見ておくから…
お前はその子についていてあげなさい」
「ありがとう…!」
「付き添われますかっ!?」
「はいっ!」
乗り込むとサイレンがまた鳴り始めて
「智くん…!」
処置が続けられる脇腹からは
鮮血が流れていて
僕は揺れる車内で
なんでこんなことに?
なんで…?
答えの出ない問いを繰り返しながら
反応のない手を力いっぱい握るしかできなかった