第23章 君がいいんだ
また訪れた沈黙を今度は機械音が破る
智くんは携帯を取り出すと画面を見て
「ごめん…僕、もう帰らなきゃ」
急に慌てた様子で立ち上がって
帰ろうとする智くんを入り口まで見送る
また会いたいって…
言いたいけど、言っていいのかな…
智くんの背中を見ながら考えていると
くるりとこちらに振り返った
「あの、雅紀さん…明日も、来てもいい?」
「え、来て…くれるの?」
「うん…ラブに謝りたいし、それに…
他の子とも、仲良くなりたい…」
君がここに癒しを感じてくれてるなら…
頷くと智くんは柔らかく微笑んで
じゃあ、と一言言って帰路についていった
小さくなっていく智くんの背中を見ながら僕は
また会える嬉しさを感じていた
智くんはあれから
ほぼ毎日Green islandに来てくれた
学校終わり
自宅に帰る途中にあるここに寄っては
みんなのお世話を手伝ってくれる
夏休みに入っても来てくれて
ラブや蜜柑のように
心に傷を負ってる子にも
根気よく優しく接してくれて
夏休みの中頃には
あの人間嫌いのラブも
智くんに打ち解け始めた
「あ!ラブが僕の手舐めてくれたっ」
手のひらをぺろりと舐めたラブを
愛おしそうに撫でてる智くんは
満面の笑みで幸せそうで
智くんの笑顔を見るたびに
僕も幸せを感じていた
「智くん、こっちも手伝ってもらえる?」
呼んだ時にラブが袖を咥えて引っ張って
チラッと見えたアザ
「あ、えっと…どうすればいい?」
「フード運ぶからついて来て?」
この前と同じように慌てて隠す智くんに
僕は気付いていないふりをした
触れられたくないのなら、触れない…
君が、話したいと思うまでは…
一週間後
この判断が間違いで
後悔をすることになるなんて
今の僕には想像もしていなかった