第23章 君がいいんだ
さっきのアザ…
すっかり忘れていたけど
初めて会った時にも、あった…
仮眠室に入り、救急箱を取り出す
「大丈夫?」
まだ俯いたままの智くんに声を掛けると
静かに頷くだけ
右腕に触れたまま黙る智くんを
座らせるために体に触れる
……心の声が、聞こえない
口を噤むのと同じように心まで噤んでしまっている
「腕、見せて?」
救急箱を開けながら言うと
小さく顔を横に振って拒否した
触れられたくないのか、あのアザのこと…
「噛まれたとこ見るだけだから」
「大丈夫だから!」
安心させようと話した言葉に
ひしるように振り絞られた声が重なる
「ご、ごめんなさい…その…」
「…こっちこそ、ごめん。本当に、大丈夫?」
「…うん」
揺らぐ瞳で弁明した智くんが俯いて
僕はもうそれ以上、言えなかった
向き合って座ったまま
静かな室内には
時を刻む秒針の音だけが聞こえる
さっきまであんなに近くに感じた智くんは
今も手を伸ばせば届く距離にいるのに
とても遠くにいるように感じる
智くん、君のこと…
そのアザのこと、知りたいけど…
ダメ、なのかな…
見えない壁をぶち破る勇気が出なくて
腿の上に置いてた拳に
ぎゅっと力が入った
「あの、雅紀さん…」
「…なに?」
出た声は心のバロメーターを表すかのように低かった
「あの…ラブのこと、叱ったり、する…?」
「…え?」
顔を上げると今にも泣きそうな顔で
「僕が悪いんだ…ラブのこと、考えもせず
撫でようとした僕が、悪いから…
怒らないであげて…?」
僕の握る拳に手が添えられて
《あの子は…悪くない》
閉ざしてたはずの心の声が聞こえた
君は…優しいね
「大丈夫、怒らないよ…」
自らよりも他者を大切にする優しさに
怒るつもりだったけど注意だけに止めようと思った
「良かった…」
張り詰めてた表情が和らぐと
智くんは右腕を撫で上げた
「智くん…僕に何かできることがあったら。
相談聞くとか、なんでも…
僕ができることがあれば、するからね…」
撫でる手を見ながら言うと
「…うん、ありがとう」
少し驚いたあと、
智くんはぎこちなく微笑んだ