第23章 君がいいんだ
「え、と…これでいい?」
「うん、そんな感じ」
日課の手順を雅の部屋で教えながらする
掃除して、補充して
一通り流れで教えるとすぐ終わって
嬉しそうに雅が一吠えした
それを見て微笑む智くん
「ありがとう、って言ってくれたのかな?」
「多分、そうだよ」
智くんの足元で飛び跳ねる雅を抱き上げる
《智、ありがとう〜》
「智、ありがとう〜」
「…えっ」
ぱちぱちと何度か瞬きをして固まった
「あ、ごめん!
雅が言ったことをそのまま言っただけだから…」
慌てふためきながら弁明すると、くすっと笑う
「ふふ、いいよ?智で」
「じゃ、じゃあ僕も雅紀って呼んで?」
「え、それはちょっと…」
「いいから…ね?」
少し考えたあと
「じゃあ…雅紀、さん」
「うん、じゃあ…それで」
今時の子にしてはとても律儀だなぁ…
あれ、そういえば…
「智くんっていくつ?」
「17だよ?4ヶ月後、18になる」
答えながら腕の中の雅をナデナデする
撫でられてる雅をちょっと羨ましく感じた
「誕生日11月?何日?」
「26日」
「へぇ、僕とほぼひと月違いだね」
「10月?12月?」
「12月の、24日」
「イブ!?やっぱり雅紀さんって…特別な人みたい」
僕を見上げながら雅を撫でる智くんの手が
黒い鼻をツン、と優しくタッチすると声が聞こえた
《俺の言った通り、智はいい奴だったろ〜?》
「ほんと、雅の言う通りだったね」
「え、なになに?雅、なんて言ったの?」
雅と顔を見合わせる
「智くんはいい人だって」
「え〜?そうかなぁ?」
「そうだよ」
「いやいや、普通だって〜」
雅を降ろして
遠慮深い智くんを連れてラブの部屋に入る
端っこの方で僕たちを見る、ラブの白い毛が
今日も見事にあちこちにある
「この子の名前は?」
「ラブだよ?」
入り口側の清掃をしようと背を向けた途端
キャンキャンと吠えるラブの声と
智くんの小さな呻き声がして
振り返ると右腕を押さえてしゃがみこむ智くんがいた
「だ、大丈夫っ!?噛まれたっ?」
こくん、と頷くから
箇所を押さえてる手を退けて袖を捲る
「……あ」
そこには噛まれた傷ではない赤紫の打撲の痕
さっ、とシャツを戻して俯く智くんを連れて
救急箱のある仮眠室へと移動した