第23章 君がいいんだ
《雅紀、この人大丈夫?》
「…脈も安定してるし、たぶん大丈夫」
施設に併設してある仮眠室
そこに運び込んで眠る少年の呼吸は落ち着いていた
心配そうに少年の頬をふんふんと嗅ぐ雅を撫でる
《顔色悪い…》
いつでも雅は人を心配するんだな…
半年前は子供が轢かれそうになったのを助けるし…
なんでそんなに人を好きでいられるんだろう
「う、う……っ…」
《あ、起きる??》
急に呻き声を上げた少年の頬を舐める
「…うぅ…とう、さ…」
ピクリと大きく動いて瞼がパッと開くと
起き上がって周囲を気にした
「ここ、は…?」
「施設の仮眠室。ごめんね?
服…濡れてたから着替えさせたよ」
僕の言葉に表情が曇る
「あ、え、と…ありがとう、ございます」
自身の体を両手で撫でる
見られたくなかったものでも隠すように
いや、実際見られたくなかったはず
まだ初夏だけど少し暑い日に
長袖のシャツを着ていた下には
撫でている腕だけにとどまらず
全身、アザだらけだったから…
「あの、すみません…僕、帰ります」
「ダメだよ、もう少しゆっくりした方がいい」
《早く帰らなきゃ…また怒られる》
急に立ち上がってふらりとよろける細い体
支えるために触れた時
怯えながら呟く声が聞こえた
怒られる…?誰に?
少年は長い前髪の隙間から
戸惑いの目で僕の手を見た
…あ、もしかして触れられるの嫌い…?
体に触れた手を離して
座るように促すとゆっくり座り直した
「ねぇ、君…名前は?僕は相葉雅紀、この子は雅」
ワンッと一吠えして尻尾を振る雅を見て
少し表情が緩んだ少年は口を開いた
「…大野、智…です」
「智くん、ね。甘いもの、好き?」
「…?は、はい……」
「ちょうどおやつの時間だし。食べていかない?」
小型の冷蔵庫の中に常備してある
甘いものを取り出す
アイスにドーナッツにチョコレート
全部取り出して見せると
柔らかく微笑んだ
子供がクリスマスプレゼントを貰ったような
無垢で綺麗な…笑顔だった
「…智くん、笑うと可愛いね」
僕の言葉に驚く智くんに
言葉を発した僕自身も驚いた