第23章 君がいいんだ
《…雅紀?どうした?》
「…僕たちが初めて会った時のこと、
思い出してた」
体の自由がきくようになった雅が
不思議そうに僕を見つめていた
《懐かしいな、もう3年くらい前?》
「…だね」
死に向かおうとしていた僕が
必死に生きてる雅と出会って
嫌だったこの能力を
この時、初めて誇らしく思った
……動物達の為、使いたいと思った
必死に勉強して
獣医師資格を取って
父さんが経営する動物病院に就職した
毎日病気や怪我でやってくるペットの子もいれば
道端で怪我してる野良の子もいた
病院に運ばれてくる身寄りのない子は
父さんのよく知る動物保護施設へと
お願いしていたんだけど
僕が保護したくて
院長である父さんにお願いして
このGreen islandは出来たんだ
あれから3年か…
なんかあっという間だった気がする
《雅紀、最近痩せた…?》
「そんなことないよ?
服、大きいの間違えて買っちゃっただけ」
《…雅紀らしいなw》
「なにそれ、失礼だなぁ〜…」
可愛くおすわりをして
僕の様子をマジマジと見る雅を一撫でして
来た道を戻ろうと立ち上がった
…ほんとは嘘
かなり体にきてる
日中は病院で働きながら
それ以外の時はGreen islandの業務
ハードで寝不足だけど
でも、いいんだ
僕は雅達の為に生きているようなものだから
マイペースに歩く雅の後を
ゆっくり着いて行く
施設の建物が微かに見えるくらいになった時
「…誰か、いる?」
施設前をフラフラと歩く人影
雅の歩幅が大きくなって
リードがピンと張った瞬間
するりと手からすり抜けた
「あ、雅っ…!」
人影に向かって一直線に走って行く雅を目にして
半年前の出来事がフラッシュバックした
「雅、みやびぃーっ!!」
あの時も手を離さなければ
雅は怪我をしなかったんだ
駆けた先でバイクに跳ねられることも
生死をさまようこともなかった
必死に走って追いついて
雅を抱き上げた
「急に走ったらダメだろ!」
《ごめん、でも…》
僕を申し訳なさそうに見た後
ゆっくり顔が下を向く
そこには人が倒れてて
「……この人、なんで倒れてるの?」
《わかんない…急に倒れたんだ》
雨も降っていないのに
全身びしょ濡れの男の子が横たわっていた