第23章 君がいいんだ
ワンワンッ
「ちょっと雅、はしゃぎすぎ〜っ」
木々が鮮やかな緑を彩る中
雅ご希望のお散歩タイム
爽やかさを纏う風の中
小走りに走ってたのが
ゆっくりに変わって
ピンと張っていたリードが緩んだ
たまにチラチラとこちらを気にする
雅がたまらなく可愛い
「ねぇ雅?さっき蜜柑に何言ってくれたの?」
草木の匂いを嗅ぎながら
尻尾が揺れる雅の背中を撫でる
《雅紀のメシは美味いぞって》
「え、え?僕が作ったんじゃないよあれ…」
普通のドッグフード出しただけだし…
《雅紀のメシはっ!
間違いないから食えって言ったんだよっ》
「え、それって…」
雅の揺れていた尻尾が止まって
《雅紀は命の恩人だからな…》
照れ隠しなのか
顔を上げない雅
「み、雅ぃ〜…♡」
《バカッ…く、苦しいっ》
愛しい小さな体を
力一杯抱き締める
そんな風に思っていてくれたなんて…
雅こそ、僕の命の恩人だよ…
僕がここでこうしていられるのは
雅が、いてくれてるからだ……
僕は、体に触れた生き物の
心の声が聞こえてしまう特殊能力を持っていた
物心ついた頃にはこれが当然で
他の人にもあるものだと思ってた
けど違った
普通の人と違うことに気づいたのは
小学校に上がったとき
友達の心の声に過剰反応した僕を
友達は気味悪がって
その日を境に
同級生からイジメに近いことを受けた
無視、陰口なんて日常で
小、中はひたすら我慢した
高校受験は県外を受けて
初めの頃はなるべく
人との触れ合いをしないように努めて
新しい環境でやり直し始めた
時間はかかったけど
人との距離感を上手く取れるようになって
高三の春に、彼女もできた
ようやく心の傷が癒されたかと思っていたとき
知りたくなかった彼女の心の声に
回復していた僕の心は…壊れた
輝くような笑顔で僕に愛を囁きながら
同級生の名前を心で呟いたんだ…
気付いたら僕は
高台にある見晴らしの良い公園にいた
夕陽がとても綺麗で
醜いもののない世界に行きたいなぁ…
自然と柵に片足を掛けて前に進もうとしたら
僕のズボンを誰かが引っ張った
振り向くと痩せ細った小さな柴犬がいて
僕を無垢な目で見ながら裾を咥えていた
《落ちたら危ないよ?》
そう、声が聞こえた後
もう一度力強く引っ張られた