第23章 君がいいんだ
今日もいつも通り
みんなの様子を見て回る
「おはよ〜雅♡お、元気だね?」
《もぉ治ったよ〜!散歩行きたいっ》
「はいはい、あとでねっ」
雅は飛び跳ねて喜びを表現する
「ラブ〜…」
小屋に入るとまた甲高い声が響き渡る
ラブはまだちょっと、だめかなぁ…
蜜柑は…
小屋に入ると毛布の上で
蹲って動かずにいた
…まだまだ、時間がかかるかなぁ
ボトルの水も減っていないし
フードも手付かずのまま……
ここに来てもう1週間なのに
水もご飯もまともにとってない
「お願いだよ、蜜柑…ご飯…食べて?」
チラリと目線だけ僕を見て
また目を伏せた
蜜柑は公園の茂みで
お腹を切られて倒れていた子
幸い致命傷までには至っていなかったけど
僕には到底わからない恐怖を
人間から受けていた
だから激しい人間嫌いで人間不信
人間不信はよくわかるよ
……僕も、それに近いから
《食べたくない、ほっておいて…》
「ほっておけないよ。僕は蜜柑の味方だから…」
衰弱からだろう
頭を撫でる僕のことを
今日は嫌がらなかった
呼吸もかすかにしてるくらいで
こんなに衰弱して…
食べないと死んじゃうよ…
蜜柑の口元に
柔らかいドッグフードを
掬った指先を近付ける
けど顔すらあげてくれない
《いらないってば…》
「僕を信じて、なんて言わない…でも。
ご飯は食べて…?生きてよ、蜜柑……」
ワンワンワンッ!!
雅が何度か吠える中
ダメ元でもう一度指を近付けると
ペロッと舐めてくれた
「み、蜜柑…」
《…あの柴犬が言うから仕方なく、よ》
2つ向こうの部屋にいる
雅を見るとワンッと一吠えした
さっき吠えてたのは蜜柑に
何か伝えてくれていたのか…
普段から凛々しい顔が
さらに凛々しく見える
「雅、ありがとう」
僕の声に反応した雅が
また一吠えした