第18章 イケナイ教育
ジュースを一口飲んだあと、場の雰囲気を明るくしようと2人の馴れ初めを聞いてみた
義父さんと母さんが出会ったのは奇しくも忌まわしきあの事故がきっかけだったそうだ
事故現場に設置されていた献花台
そこに母さんは毎年、父さんが好きだったというガーベラの花束を供えていた
12年目のその日、母さんが献花台にいつものように花束を持って近づいた時
同じようにガーベラの花束を供えた義父さんがずっと長い事手を合わせているのを見て、母さんが声を掛けたのだと話してくれた
「あの時は驚きましたよ…急に声掛けられたから」
少し白髪の混じった頭を掻いて、くすりと笑う
「…すみません、母さん思い立ったらすぐ行動する人なもので…」
「だって〜…同じガーベラが好きな人って思ったら話がしたくなっちゃったんだもの」
その日から毎年命日に会うようになり、惹かれあっていったのだと照れながら教えてくれた
「…なんか母さんがナンパしたみたいだな」
冗談めいてそう言えば軽い笑いが起きると
少し複雑な顔をしていた智くんも緊張の糸が解れたようで穏やかに微笑んだ
…何またドキドキしてんだよ、俺…
少し煩く鳴る心臓の音を誤魔化すように今度はジュースを全て飲み干す
「さて…軽く挨拶も済んだことだし、翔…あのダンボール箱の整理手伝ってあげて?」
「オッケー」
母さんがトレイを持って、空いたカップやグラスを持って流しに持って行く
俺は立ち上がるとシャツの袖を捲りながら廊下に向かう
「ごめんね、翔くんが帰ってくるまでに終わらせておくつもりだったんだけど…」
「母さんが話しこんだから出来なかったんでしょ?」
「…さすが、よくわかるね」
義父さんもシャツを捲りながら後ろをついてくる
振り返るとさっき見た智くんと同じような、穏やかで柔らかい笑みを浮かべていた
「母さん、調子いいとマシンガンぶっ放してんの?ってくらい喋るから…」
「ははっ、そうだね…でも、私はそういう明るくて楽しいところに惹かれたんですよ」
ダンボールに手を掛けていた俺の手がその言葉で止まる
「私を受け入れてくれてありがとう、翔くん」
「いえ…」
母さんいい人見つけたじゃん…心の中でそう呟いて荷物を片付け始めた