第16章 夏男はご立腹
「…ただいま」
家に着くまでの道中、車内でも無言を貫く潤は靴を脱ぐと何も言わず俺の前をスタスタと進んでいく
まだキレてんな…
ふぅ、と1つため息をついてその後を追う
リビングに入ると潤はソファにどかっと座ってまた眉間にしわを寄せてる
俺から言わないと何も言わないつもりみたいだ
「…潤、何怒ってんの?」
「………別に」
「…この前のキスのことでキレてんの?」
ニノに指摘されたこと…
『番組で俺がキスしてたこと』が原因だと言われたから確信に迫ろうと口にすると眉間によるしわが深さを増した
「…そうなんだね?」
返事は口にしなかったけど、表情がそうだと雄弁に答えを語っていた
「あんなの、ビジネスキスじゃん…怒るとか…」
「それでも!俺はヤなんだよっ!!」
言いかけの言葉がかき消され、外されていた視線が絡まって
「ビジネスだって俺だってわかってるよ!でもヤなものはヤなんだっ…」
立ち尽くす俺を力一杯抱きしめてきた
「痛いよ、潤…」
「俺の心はもっと痛いっ!」
腕の中でもがくけど一向に力を緩めてくれない
なんで今日に限ってこんなに怒っているのか…ビジネスキスなんて今に始まったことじゃないのに
「それに!俺にはしてくんねーのに…っ」
…ん?
「なんでビジネスなら進んでするわけっ!?」
………んんん?
「ちょっと待て、潤…俺たちキスもそれ以上もしてるじゃん、何言って…?」
「俺は一回も翔からキスしてもらったことない!」
…それがこんなに怒ってる原因か
「…そ、そうだ、っけ…?」
「自覚ねぇのっ?いつも俺からだよ!キスだって、セックスの誘いだって…!」
…自覚はある、だってわざとそうしてるもん
チラッと視線を横にやれば切なげに下がった眉と少し潤んだ瞳
「……俺のこと、ほんとは好きじゃない…?」
「そ、そんなことないっ!好きだよ、好きっ…」
抱きしめられたまま頬に触れてくる
「じゃ、なんで俺にはキス、してくんねーの?セックスだって…求めてくれないし、俺…不安だよ…」
揺れる瞳に隠していた心情を吐露した