第12章 自由で、天然で、でも………
くしゃくしゃの顔に伝う雫
頬を伝う雫が雅紀の手で掬われてもなお、次々溢れては頬を濡らしていく
「……嬉し泣き?」
「…そ、だよ…っ、こんな…して、くれるなんて…思ってない、し…」
「かずの誕生日だもん…するよ、これくらい」
背後から抱きしめられていたかと思うと体をゆっくり反転させられて
正面からまた温かな腕で抱きしめられる
「ケーキもね、作ったんだ♡食べてくれる?」
こくこく、と静かに頷くと風船いっぱいの中ゆっくりとソファに座らせてくれて
キッチンへ向かった雅紀が戻ってくるとその手には少しイビツな形の小さなホールケーキ
生クリームでデコレーションされたケーキにこれでもかというほどイチゴがたっぷり乗っていて
バースデーケーキだと一目でわかるそれに釘付けになって動けずにいる俺の隣に雅紀がそっと腰掛けた
「かず、今日はさ……ここに座ってよ?」
ケーキを片手に持って空いた手で『ここ』を示してくる
そこはソファに腰掛けた雅紀の両脚を指していて
「……おいで?」
躊躇っていた俺に優しく声を掛けてくれる雅紀の言う通りにゆっくり跨って両脚の上にそっと座る
向かい合わせに座ると雅紀の手にあった小さなホールケーキがフォークで掬われて
「はい、あーん?」
少し首を傾げながら綺麗な瞳を細めて微笑み、口元にフォークを差し出してくれた
頬に残った雫の跡を両手で拭ってから差し出されたフォークを口に含む
ケーキはほのかに甘いくらいの優しい味で
雅紀の優しさがこの味を作ったかのように感じていると
フォークを口からすっと引かれてじぃっと見つめられる
その目は言葉を待ち望んでいるかのようだったけど、俺は言葉にせず嬉しい気持ちを両腕に込めて愛しい恋人を力いっぱい抱きしめた
「…ちゃんと、感想聞かせてほしいな〜?」
「……言わなくてもわかんだろ…っ…」
「わかるけど…やっぱり、そこは言葉で聞きたいな…」
すり、と俺の肩に頬を寄せてそう言われて感想を口にした
「……美味しい」
自由で、天然で、
「……良かった♡」
でも……こんなに俺を想ってくれるたった1人の大切な人
「…大好き」
一言呟いて
『ごめんね、ありがとう』
その気持ちを込めて少し無防備の雅紀の唇にキスをした