第4章 カケラの眩しさ
❁❁❁ 千side ❁❁❁
はぁ···ダメだ、上手くいかない。
さっきから何度も曲の繋ぎがしっくり来なくて、同じ所ばかりを行ったり来たりしている。
ちょっと息抜きでもしようと作業部屋から出れば、リビングには何かを見入っているモモの姿が見えた。
喉の乾きにキッチンへ足を運びながら、モモはいったい何を真剣に見ているんだと視線を流す。
ー 僕にはもう、キミの側にいてあげることは出来ないんだよ。だからもう、忘れてくれ ー
ー そんな事、出来るわけない···だってもう、アナタは私の中で、こんなにも大きな存在になってるのに··· ー
これは、僕達と愛聖の?
ほどよく冷やされたミネラルウォーターを口に運びながら、モモの好きな物も一緒に取り出してソファーへと向かった。
「随分と懐かしいやつを見てるんだね···モモ?」
百「ユキ!どうしよう!···ユキが死んじゃう!!」
···。
「僕は生きてるから」
まったく···どれだけのめり込んで見てるんだよ。
モモのボロ泣きに苦笑しながら画面へと目を移す。
ー ずっと···愛してたよ··· ー
ー 愛してたって···どうして過去形にしてしまうの?言ってよ···?今も、これからも···愛してる、って··· ー
涙を流しながら悲しげに微笑む愛聖のシーンか···
あの頃は、このシーンの為に何日も同じ撮影を繰り返しては監督に怒鳴られてたっけ。
上辺だけの演技なら誰でも出来る!帰れ!とか。
役を着ようとするな!その人物として生きろ!とか。
傍で聞かされる僕達や他の演者でさえ、なんて無茶なことを···って思って聞いてたけど。
あの監督の熱心な怒りの指導があったからこそ、いい作品に仕上がったんだ。
そして怒られ続けた愛聖も、この作品で飛躍の一歩を踏み出したって事は、あの監督の目は確かだったって事にはなるけど。
現場では一切涙を見せず監督の指導に食らいついてた愛聖も、僕の部屋で···どれだけの涙を見せたことか。
百「グズン···いい映画だった···」
「···そうね」
気がつけば主題歌が流れ、スタッフロールが文字を連ねていた。
百「この撮影の時さ、マリーはよく···この部屋で泣いてたよね···現場では絶対に泣かなかったのに」