第4章 カケラの眩しさ
万「改めましてこんばんは、大神万理です。今夜は俺の、ひとりレッスン会場にようこそ。猫さんは···何かリクエストはあるかな?」
リクエスト···歌ってくれるの?!
『あ、えっと···』
万「いいよ、何でもリクエストして?」
『じゃあ、折角だから···万理が最後に歌った曲、とか···』
確か、この曲を歌っていた時に事故が起きたって聞いた。
そのせいでケガをした万理が、いなくなったという事も。
それからずっと千が歌うことも、この歌を聞くこともなかったから。
聞きたい···万理の声で。
万「これはまた、懐かしい曲をリクエストされたな···」
戸惑うような万理の言葉が、ゆっくりと届く。
『ダメ···か、にゃん?』
恐る恐る聞けば、万理がフッと小さく笑った気がして···そのまま、そっと懐かしい曲のイントロが流れてきた。
それを聞きながら私もドアにもたれ掛かり、その場に腰を下ろした。
ドア一枚隔てた向こう側で、万理が歌ってくれてる。
それは私に向けてではなくて。
今は、寂しがり屋で甘えん坊な···迷子の猫さんに向けてではあるけど。
万理の歌声は、昔と変わらず優しくて···懐かしくて···万理が歌い終わる頃には、胸の奥が暖かくなっていた。
万「次の曲で終わりにするよ?···次の曲は、俺が作った曲じゃないから上手く歌えるか分からないけど···」
そう言って万理が爪弾くメロディーに、思い掛けず心が揺れる。
どうして···この曲を···?
この曲は、私が初めて映画の仕事を貰った時のタイアップ曲で。
Re:valeとダブル主演で、曲も···千が作って、百ちゃんと三人で歌った···あの曲···
私が歌うよりも、ずっとずっと切なく歌い上げる万理の声に、当時の辛さと苦しさを思い出して涙が溢れた。
泣くシーンで泣けなくて、悲しげに微笑んで見せろと言われても、それが出来なくて。
何度もリテイクして監督を怒らせ、怒鳴られて。
その時に初めて···私はこの仕事が向いてないんじゃないか?
夢は···夢のままの方が良かったんじゃないか?
そう思い始めて。
こんなに苦しいなら、いっそ降板···とか考えたけど。
辞めるのはいつだって出来る、だったら···!
そう奮起して気持ちを入れ替えて挑んだ作品だった。