第4章 カケラの眩しさ
姉鷺さんが手渡しで届けてくれた最後の荷物。
それに新しく弦を張って貰えるように万理にお願いすると、快く引き受けてくれた。
『断られなくて良かった···暫く触れてなかったし、私は弦張るの下手っぴだから万理に断られたらどうしようかと思っちゃった』
これから暫くの間は、私には時間はたくさんあるから、久し振りにちょっと練習してみようかなって思ったから。
万「もし俺がムリだって言っても、あのメンバーの中だったら壮五くんとかは楽器触ってたみたいだから出来ると思うけど?」
『そうなの?でも···いいの。貰った時に弦張ってくれたのが万理だから···初めては万理がいい』
万「ばっ、爆弾発言禁止!···ビックリするだろ」
爆弾発言って······あっ!!
自分が言った事を考えて、急速に恥ずかしくなる。
『ち、違うよ?!そういう意味じゃなくて!···万理···やっぱりエッチ!どっか行って!!』
万「今のは俺のせいじゃないだろ?!それにここは俺の部屋!」
そうでした···と笑い飛ばしながらも、ひとつしかない枕をポフッと投げれば、難なくキャッチした万理もコラ!と笑う。
こんな夜も、今日が最後。
明日からは、ここよりも賑やかな部屋での生活が始まるんだ。
だから、万理と顔を合わせるのも事務所だけで···この部屋で素の万理を見るのも、最後。
最後···かぁ···だったら。
ダメもとで、もうひとつお願いしてみようかな?
『ねぇ、万理。もうひとつ、お願いがあるって言ったら···聞いてくれる?』
万「お願い?まぁ、俺に出来る事ならいいけど」
『大丈夫。いまは、万理じゃなきゃ出来ない事だから』
万「俺にしか?···なんだろ?」
不思議そうな顔をする万理に、私は不安定なベッドの上で正しい姿勢に座り直した。
『万理の歌が聞きたいです』
万「···は?」
『だから、万理の歌が聞きたい···ダメ?』
万「いま?···えっ?なんで??」
急に慌て出す万理に、思わず笑いがこみ上げる。
事務所では、みんなのお兄さん的存在で。
社長からも信頼の厚い、しっかり者の有能事務員で。
だけど、家ではこんなにも楽しい···素の万理を見せてくれる。
そんな事が、いまは私だけの秘密みたいで楽しくも嬉しくも思える。
『ダメ?久し振りに聞きたいな···万理の歌』