第1章 輝きの外側へ
この一瞬まで、神様なんていないと思ってた。
でも、私の目の前にいる人物は紛れもなく探し続けていた人で。
万「愛聖、なのか?」
『万···理、なの?』
違っても構わない。
例え人違いであったとしても、その名前を呼んでみたくて···
だけど今、確かに私の名前を···呼んだ。
『万理···ずっと探してたのに、今までどこに、』
万「···立てる?」
私の言葉を遮るように、万理が手を差し伸べて瞳を揺らす。
ー危ないじゃないか!キミ!ケガは?! ー
車から降りて来たドライバーが駆け寄り、私に声を掛けて来た。
万「ケガは、大丈夫です。連れがご迷惑をお掛けしました。申し訳ありません」
私の顔を隠すように自分の胸に押し当て、万理が丁寧に謝罪をしてくれる。
ー ケガがないなら良かったよ、それじゃ ー
立ち去る足音が消え、代わりに車が走り去る音が聞こえてくる。
『万理···』
万「送って行くよ。こんな時間に有名人が歩き回ってたらダメだろ?」
さ、行こうか?と私の背中に手を当てる万理は、あの頃とは少し変わってしまった気がして寂しくなる。
それだけ時がみんなを大人にしてしまった、と言うことなのかも知れない。
万「ほら、遅くなると事務所の人に叱られるから」
『事務所なんて、関係ない、から。大丈夫···』
万「何を言ってんだよ、愛聖。いまは八乙女プロの、」
「違う」
万「何か、あったのか?」
「それも···違う」
じゃあ、と疑問符を投げる瞳に耐えられず、スっと視線を逸らす。
万「とにかく、送って行くから。女の子の夜道の一人歩きは危ないし」
私には、帰る場所なんてない。
でも、そんな事を数年振りに会う万理には···言えないよ···
自分のシャツをキュッと握りながら、あの日、私を追いかけて来た龍に見せた笑顔を作り出す。
『万理、いろいろありがとう。久し振りに会えて···嬉しかった。万理と会えなくなってからずっと、神様なんていないんだって思ってたけど···粋な神様もいるんだって、思った』
万「愛聖?」
「一人で帰れるから、心配しないで?それから、元気で···」
笑わなきゃ···そう思うのに。
どうして笑えないんだろう···
『また万理に会えて、よかった···じゃ、またね?』