第1章 輝きの外側へ
大人の世界で、またね?なんて約束がまともに果たされた事はない。
それも分かっていて、私はそう告げ駆け出した。
万「愛聖?!」
振り返ったりはしない。
振り返ったら、足が止まって現実を突きつけられそうだから。
人混みを掻き分けながら、ただひたすら走る。
行き先なんて考えてない。
走り続けて、息が止まりそう···
こんなに体力なかったっけ、私。
万「愛聖!待っ···あ、すみません!」
万理の声がすぐ後ろに聞こえた時、私の進路を悔しくも信号に阻まれた。
万「やっ···と、捕まえた···ハハッ、相変わらず駆けっこ早いな、愛聖」
途切れた呼吸の合間に、万理が私の腕を掴む。
「は、離して」
万「離さない。どうしてか分からないけど、君をあのまま見送ったら···後悔しそうだったから。あのさ、もしかして···何かあった?」
『別に、ないよ』
まっすぐに見据えられ、それが耐えられずに目を逸らす。
万「それは、ウソ。変わってないなぁ、その感じ···俺でよかったら、話聞くよ?」
もし、話を聞いて貰ったら。
何かが···変わるんだろうか。
いまの私の現状を話して、嫌な顔されたら。
住所不定、無職、帰るところも、行くところもない。
そんなに人間に、関わりたいと思う人なんているはずもない。
だけど···
万「愛聖、オレってそんなに信用ない?···とか、言える立場でもないのは分かってるけどさ?」
『万理···助けて···』
零れ落ちる涙を拭いもせずに万理を見て、ただ···差し伸べられた優しさに、触れたくなる。
万「了解」
それから少しの間、万理は私の涙が止まるまでチラチラと見て歩く群衆から隠してくれた。