第1章 輝きの外側へ
❁❁❁ 万理side ❁❁❁
ん~···今日も忙しかったなぁ。
事務所の戸締りをして、大きく伸びをする。
だけどこの忙しさが、これから輝く場所へ飛び出して行こうとしてるあの子達の為だと思えば、嬉しい忙しさじゃないかと頷いてしまう。
何より、この業界で働く事が出来るのも、アイツに夢を預けて背中を向けてしまった俺を···人知れず拾ってくれた小鳥遊社長のお陰だから。
その社長が今、いろいろと苦労に苦労を重ねながら育てているグループを大空へ羽ばたかせようとしている。
そのお手伝いが出来るんだから、疲れた···なんて言ってられない。
家までの道を歩きながら、帰ってから夕飯作るのも面倒だ、なんて思っていると急に周りがざわめき出す。
ー ねぇねぇ!Re:valeの新曲PVが流れてる!早く早く! ー
Re:vale、か。
周りの人達に釣られて見上げた大きなビルのパネルに映し出されるPVは、彼らの存在を引き立たせる仕上がりになっていて思わず足を止めてしまう。
「千···歩き続けてくれた事が嬉しいよ」
もう痛みなどない傷跡をそっと押さえ、PVを眺めた。
「···帰ろう」
誰に向けた言葉ではない独り言を呟き、緩くなった人混みから出るとフラフラとした足取りで進む誰かの後ろ姿が目に入った。
酔ってるのか?
この時間と言えど女性が一人歩きなんて危ないだろ。
そんな事を考えているうちに、横断歩道へと進んで行ってしまう。
いまあの信号は赤じゃないか!
周りを見ることもなく進み続ける姿に危機を感じ走り出す。
脇目も振らず駆け寄り、そのフラつく腕を掴み引き寄せた。
「危ない!!」
急に引き寄せられる力でバランスを崩し、俺に倒れ込むのと同時に聞こえる急ブレーキの音。
「ふぅ、危機一髪···大丈夫ですか?怪我は?」
驚きと恐怖で体を固くする相手に、そっと声を掛けた。
『すみません、でした。ボンヤリしていて』
「ケガがなくてよかっ···」
ポツリと言って顔を上げる相手を見ながら、大きなケガがない事を確認して···今度は俺が驚く。
ま、さか···ウソ、だろ?
だって今、こんな所にいるハズが···ない。
何度も何度も瞬きをして、ここにいるハズがない相手を思い浮かべては込み上げてくる懐かしさに胸を熱くした。
「愛聖、なのか?」