第3章 新しい環境
小「これからは路頭に迷うことがないように僕もバックアップはするつもりだから。じゃ、話を戻そう。ここからは僕が説明するよ、八乙女の事もあるからね」
普段柔らかな笑顔を見せる社長が、ひと呼吸置いて万理の部屋で私と会った後のことを話し始める。
万理の部屋に、まさか私がいて驚いた事。
社長も初めは万理に恋人がいたと思ったらしく、ちょっと慌てた事。
チラッと私を見た時から、私が八乙女社長の所にいる人間だと気付いていた事。
私から細かい話を聞いて、八乙女プロダクションの所属を離れたなら自分の所に連れて行ってもいいだろうと思った事。
それを踏まえて、八乙女社長と二人で今後の話をした事までを話してくれた。
ただ、八乙女社長に何を言われたのかまでは教えて貰えなかったけど、話の途中で何度か苦い顔を浮かべながら私を見たあたり···
きっとあの八乙女社長の事だから、キツイ言葉を投げられたんじゃないかと申し訳ない気持ちも浮かんだ。
小「それで、向こうを一方的に解雇されたとなったら八乙女自体も体裁が悪くなる。メディアはそういう所、深く突っ込んで来るからね。だからお互いの事務所や愛聖さんの為にも表向きは円満な移籍、という流れにしてあるよ。もちろん、移籍金とかそういう物は一切発生しない。元々フリーだからね、愛聖さんは」
言われてみれば、確かに···と納得は出来る。
解雇されて他の事務所に···となれば、小鳥遊社長の言う通りメディアはマイナスな部分を面白おかしく追求して来る。
そうなれば当然、どちらの事務所にもマスコミが押しかけて来る事は決定的で。
私は私で、八乙女プロダクションを解雇された人間···というイメージが定着する。
私としても、これからまた再始動を少しでも考えたら、そんなイメージは払拭するのに時間がかかってしまう。
そうなると移籍、というカタチがありがたいと思えた。
壮「あの、ちょっといいですか?少し混乱して上手く言えないんですけど。愛聖さんは実際には僕達の大先輩に当たる訳で、それなのにここでは研究生から始めるって、それはどうしてですか?本来ならすぐに現場に出ても大丈夫な実力はあるはずですよね?」
『それはね、逢坂さん。私は今すぐ急いで仕事がしたくて、ここに置いて貰ってる訳じゃないから···かな』