第14章 心の行方
『でも、もしその人の事が好きだったとしても結ばれない運命だったのかもだよ?』
私がそう言うと、姉鷺さんがどうしてそう思うの?と言葉を返す。
『だってその時のお兄ちゃん、私とたくさん遊んで洋服が汚れた時に、家に帰ったら母さんにまた怒られるなって言ってたもん』
姉「・・・そう」
それに母さんだって、日が暮れる前に帰らないとダメよ?って、あなたにはあなたの帰りを待つ人がいるんだからってお兄ちゃんのお父さんに言ってたし。
それも付け加えて言えば、姉鷺さんも楽も、なんだか少し複雑な表情を浮かべていた。
『もう顔も名前も思い出せないくらい記憶が霞んでしまってるし、どこの誰だったのかも分からないけど。でも、時々その頃の事を思い出しては、もしかしたらどこかですれ違ってたりして?とか』
姉「思い出は思い出のまま、大事にしまっときなさい」
『分かってますって。あ、でも!この話を三月さんと逢坂さんと話してた時に、三月さんがそのお兄ちゃんの事を楽みたいだって言ってたよ?』
楽「俺に?なんで?」
『そのお兄ちゃんが初めて私を木登りに誘った時、お前が見た事ない世界を見せてやる・・・って言った話をしたら、楽みたいだって言ってた』
そう言われると、それっぽいのかもって思って笑ったんだけどね~と言えば、姉鷺さんも確かに楽みたいだと笑った。
楽「ったく・・・俺のイメージってどうなってんだよ」
姉「あら、意外と合ってるんじゃない?きっと愛聖の憧れのお兄ちゃんって子も、今頃イケメンに育ってるんじゃないかしら?」
楽「俺のそっくりさんなんていらないだろ。俺は、いや、八乙女楽は世界に1人いりゃ充分だ。っと、忘れてた・・・愛聖、これやる」
ほらよ、と楽が軽く放り投げて来た物を受け取れば、私が時々ここの自販機で買ってる飲料水で。
『ありがとう。撮影の合間に有り難く飲ませていただきます』
楽「これくらいならいつでも買ってやるよ」
そんなやり取りをしていると、電話を終えた社長も部屋に戻って来た。
楽「社長さんも戻った事だし、俺たちはそろそろ帰るか」
姉「そうね。長居したら悪いから」
小「僕が抜けていた間ここにいてくれてありがとう。本当に、いつもお世話になってて感謝してるよ」
社長が言うと、楽も姉鷺さんもたいした事はしてないと笑って返す。