第14章 心の行方
❁❁❁ 楽side ❁❁❁
「八乙女さん、お疲れ様でした!」
撮影スタッフから声を掛けられながら通路を進み、自分に用意された控え室のドアを気だるげに開ける。
姉「楽、お疲れ様。今日はこの後のスケジュールはオフよ」
「だろうな」
そもそも今日のスケジュールは撮影のみで、早く終わろうが撮影が長引こうが関係なかったからな。
姉「で、どうする?」
「どうするって、何がだよ」
姉「アンタの事だから、愛聖の撮影でも鼻の下伸ばして見ていくのかしら?ってことよ」
「はぁ?!誰が鼻の下なんか伸ばすか!・・・愛聖はこの後から撮影入るのか?」
言われてみりゃ、今日は朝からアイツの姿を見てねぇなと思いながら、あからさまにニヤつく顔にどうなんだ?と返す。
姉「ついさっきあの子と会ったのよ。それで、今日は随分と重役出勤ね?なんて声を掛けたら、お相手のスケジュール都合で撮影がこれからだって聞いたの」
お相手・・・あぁ、あの人か。
姉「もし楽がこのまま帰るって言うなら車出して来るけど、見てくって言うならアタシも残るし」
「別に帰って貰っても構わないけどな」
帰りなんてタクシー使ったって家には帰れるんだし。
姉「じゃ、残る方向で」
「なんでだよ」
姉「当たり前でしょう。お仕事は、家に帰りつくまでがお仕事よ?」
子供の遠足かよ!
姉「それじゃ、行きましょうか」
「どこに?」
姉「愛聖の控え室に決まってるでしょう?モタモタしてると出番が来ちゃって話をする時間もなくなっちゃうし」
「勝手に決めんなよ」
姉「あら楽・・・ンンッ・・・決定事項だ」
・・・は?
「一応、聞いとくけど。今のは親父のマネか?」
あからさまに息を吐き出して言えば、よく似てるでしょ?と笑い出す。
「似てねぇよ。つうか、俺の前で親父のマネすんな」
先に行くからな?とひと声残してドアを出る。
行きながら飲み物でも買ってってやるか?
ポケットのコインを幾つか掴みだし、数メートル先の自販機を見て早足で進む。
最近なにかと撮影が別班で、すれ違いが多かったからな。
たまにはアイツの顔でも見て、気分転換でもするか。
構った後に膨れる顔を思い浮かべては、緩む口元を引き締めた。