第13章 デビュー会見と、そして・・・
事務所へ来た社長と共に、オーディション選考であるカメラテストをされるべく・・・会場へ入る。
『ヤバい・・・なんだか緊張して来た・・・』
普段はそれほど緊張でガチガチになる事はないのに、どうしてか控え室へ入ると気が抜けてしまったのか、ここへ来るまでに見かけた場の雰囲気に飲まれそうになって大きく息を吐いた。
小「珍しいというか、貴重な時間を目撃した気分だよ僕は」
向かい側に荷物を起きながら笑う社長に、私だって緊張することはありますよ?と上手く笑えない表情を見せながら、自分の手荷物を並べていく。
『カメラテストだなんて暫くぶりだし、ちゃんと出来なかったらどうしようとか、なんだかそんな事ばかり浮かんでしまって』
ムニムニと頬を指先で解しながら言えば、社長は穏やかな表情を浮かべながら私を見る。
小「上手くいかなかったらどうしようとか、そんな事は考えなくていいよ。もし今日がダメだったら、また次がある。それもダメなら、またその次がある。そうやって見えない未来を手繰り寄せて行くのがキミと僕との共同作業だよ?」
『でも、』
小「でも、もダメ。でもとか、たらればの考えは今は必要ないよ。ダメならダメでいいんじゃない?そうなった時は、僕と一緒にいる時間が増えるんだぁ!やったぁ!・・・くらいに、楽しく考えてみようよ?」
緊張で表情が強ばってしまう私とは正反対に、社長はニコニコと穏やかな表情を崩すことなく、ね?と小首を傾げて見せる。
小「あ、それとも・・・こういう時は僕も鬼社長のように喝を入れる方がいいのかな?」
『そんな!別に社長は八乙女社長みたいに無理して怒らなくてもいいです!』
小「あれ?僕は鬼社長とは言ったけど、別に八乙女の名前なんて出てないけど?」
うわぁ・・・やられた。
シマッタ!と口が空いてしまう私を、社長は楽しそうに見ている。
『社長が鬼だとか言うから、私はてっきり・・・八乙女社長の事かと・・・』
なんとなく気恥ずかしくて両手で顔を覆いながら言えば、またも社長は楽しそうに笑った。
・・・あれ?
なんか今のやり取りで、通常運転に戻ったかも?
気がつけば冷たかった指先がほんのりと体温を取り戻し、微かに震えていた事さえ・・・なかった事のように落ち着いている。
社長って、凄い。
何気ない会話だったのに、あっという間に緊張が解けてる!