第3章 新しい環境
三月さんに手当をして貰いながらも、ずっと考える。
どこまで深く、話そうか。
全てを話すなら、あの夜の事も話さなければならないから。
結果的に逃げ出したから、何もなかった事にはなる。
だけど、何もなかったからと言って、一瞬でも体を投げ出そうとしたのは···他の誰でもない、私。
これからの未来がある彼らに、そんな生々しい黒い部分を話してもいいんだろうか。
でも、そこを話さなければ···そもそも私がどうして小鳥遊社長に拾われたかの経緯が説明つかないし。
三「まだ痛いのか?」
『え?』
三「なんか難しい顔してっからさ。痛いなら、もっかい冷やすか?」
ガーゼを押さえる手を止めて、三月さんが水道をチラ見する。
『冷やすのは···大丈夫です。ただ···ちょっと考え事をしてて』
三「あぁ、さっきの陸の言ったことなら気にしなくていいぞ?アイツは根掘り葉掘り聞こうとして言ったんじゃないから」
なっ?と笑って、三月さんがガーゼを押さえ直す。
『あの、三月さん。もし···もし私が、後暗い過去を持ってるとしたら···』
三「後暗い過去?そんなの関係ねぇだろ。もしあったとしても、それがあるから今の愛聖がいるんだし、オレ達とも会えた。それに後暗い過去なんて誰にだってあるぜ?」
『三月さんにも?』
三「おぅよ。あのな、ここだけの話だけどな?オレ、どうしても背が高くなりたくてさ。子供の頃のおやつの時間に、一織の牛乳こっそり減らしてオレが飲んでたんだよ···」
シーっと、口に指を当てながら話す三月さんに、私も思わず声を小さくする。
『効き目、ありましたか?』
三「見ての通りなかったけどな」
見ての通り?と考えながら、私が初めてみんなと顔を合わせた時のことを思い出して笑ってしまう。
三「笑うな!とにかく、オレだってそういう内緒話があるんだ。だから、みんなを信じられるなら話せばいいし、話したくなければムリに話す必要もないってこと。はい、手当ても終わり!」
ニカッと笑いながら救急箱の蓋を閉め、三月さんが私を見る。
三「ここにはさ、いろんな事を抱えたヤツらがいる。だから、あんま余計な心配すんな?苦しいより、楽しい方がいいだろ?」
『···です、ね』
苦しいより、楽しい方がいい···か。
三月さんの言葉で、心が少し軽くなった気がした。