第13章 デビュー会見と、そして・・・
❁❁❁ 百side ❁❁❁
「ユキ、そろそろだね」
千「そうね・・・」
こんな会話を10分くらい前から続けて、ユキはようやくソファーに座って待ち続けるオレの隣に腰を下ろす。
「初回放送はリアタイで見れなかったけど、今日は万全の体制だよ!・・・とは言いたいけど、事務所のテレビ・・・」
岡「すみません。放送時間に間に合うには、ここで見るしかなかったんです」
申し訳なさそうに言葉を返すおかりんに平気!と元気よく返して、また、テレビ画面へと視線を戻す。
千「おかりん、音量上げて」
オープニングが始まったのを見て、ユキがおかりんに言う。
前回のあらすじが簡単にカットアウトされながら流れて行き、そして今日は・・・
ー 本当に、行ってしまうのか? ー
ー 決まった事だし、覚悟も出来てるの ー
ー 覚悟って、行き先は遊廓じゃないか!そんなの・・・そんなのダメだ! ー
ー ・・・もう、決まった事なの。だから、あなたとはここでお別れだよ。私みたいな貧しい長屋住まいの小娘に、暖かで優雅な夢を見させてくれてありがとう。ずっと祈ってるから、だから・・・あなたは立派にお家を継いでね?・・・約束、だよ? ー
ー 僕は夢だなんて思ってなかったよ・・・いつか、いつかきっと、迎えに行くから・・・ ー
マリーが扮する娘が、首を小さく振りながら、そっと小指を差し出して瞳を潤ませる。
その指に、アイドリッシュセブンの壮五が役についた青年が自分の指を迷いながらも絡ませ目を伏せた。
ー おい、そろそろ行くぞ ー
迎えに来た遊廓の男に促されながら、マリーは足取り重く歩き出す。
振り返ることもなく歩いて行く後ろ姿をずっと見つめながら、青年は自分の着物をシワがつく事も気にせず握りしめていた。
「ユキ、あのさ?」
千「なに?」
「なんか今更だけど、凄いよね。女優って仕事がそうなのかも知れないけどさ?いま見てるマリーも、こないだ現場にお邪魔しに行った時に見た刑事役のマリーも、オレたちといる時のマリーも、TRIGGERやアイドリッシュセブンといる時のマリーも、全部全部、マリーなんだよね・・・こんなにたくさんのマリーがいるとさ、どれが本当のマリーなんだろうって思っても不思議じゃないよね?」