第13章 デビュー会見と、そして・・・
『その頃、本当に何度かってくらい遊んでくれてたお兄ちゃんがいてね。母さんがお弁当作って出掛けるって言うから行ってみたら、知らないおじさんとそのお兄ちゃんがいて。子供ながらに、新しい父さんはいらない!って泣きながら母さんに言ったこともあるけど、そうじゃなくて』
三「ただ遊んでただけか?」
『まぁ・・・最初はお互いに人見知りしてたけど、何度か顔を合わせる度に距離が近くなって、水遊びしたり、どろんこ遊びしたり。その時だったんです。大きな木があって、登るぞ!って言われて』
そんな話を始めると、三月さんはちっこい女の子相手に木登りとか、そいつはなかなかやんちゃ坊主だったんだな?と笑う。
『でも私は木登りなんてした事なかったし、高くて怖いからムリだって言って。そしたら、そのお兄ちゃんが・・・来いよ、愛聖。お前が見た事ない世界を見せてやる、って言って、自分が先に登って私に手を伸ばして引き上げてくれて。初めて見た景色が夕焼けに色付けられた綺麗な景色で、こんなのを知ってるお兄ちゃんって、カッコイイな・・・って思った事を、思い出したっていうか』
お兄ちゃんの顔なんて思い出せないのに、その時に見た景色だけは、なぜか鮮明に思えてるんだよねと加えて言うと、三月さんも逢坂さんも、それだけインパクトが強かったんだろうと目を細めていた。
三「けど、その頃はまだ高いところは怖くなかったのか?愛聖、前に脚立から降りれなかったり、一織のベッドからも怖くて降りれなくてとかあっただろ」
『そうなんです。多分、ですけど・・・私が高いところが苦手になったのって、その木登りから降りる時に下を見ちゃって、思ってたより高くて怖くて。そのお兄ちゃんが大丈夫だって言ってるのも信じられなくて大泣きして』
壮「まさか、落ちたとか?」
『落ちそうにはなりました。けど、ちょうど私たちを探しに来た母さんと、お兄ちゃんのお父さんがそれを見つけて、お兄ちゃんのお父さんが私がいる所まで登ってくれて助けてくれました。いま思えば、あの時に見た下の様子が怖くて高い所は危ないってインプットされてるのかも』
あの時、怖くて必死にしがみついていた大きな胸の温もりは、今もまだ、ずっとずっと忘れられずにいるけど・・・
どうして、2人の顔が思い出せなくなっちゃったんだろう。