第13章 デビュー会見と、そして・・・
「僕は、愛聖さんはとても頑張ってると思うよ?」
八「フン・・・お前は如何せん、誰に対しても甘過ぎるんだ。お前こそゼロから教育を受け直すんだな」
吐き捨てるように言って、八乙女がどこかへと歩いて行く。
「あ〜、怖い怖い。僕はあんな怖い社長にはならないから安心してね?」
敢えて八乙女に聞こえるように言えば、八乙女は一瞬立ち止まるものの、振り返ることもせず、また歩き出した。
『すみません社長・・・なんか私へのお説教の巻き込み事故みたいになってしまって』
シュンとして僕の顔色を伺うように見る愛聖さんに、僕は笑顔を返す。
「大丈夫だよ、愛聖さん。僕は八乙女が、ただ厳しいだけの人間じゃないって事はちゃんと分かってるから。愛聖さんだって、そうでしょ?」
『あ、はい・・・まぁ』
「それに、八乙女がピリピリする理由も僕は知ってるから、気にしてないよ」
『八乙女社長が、ピリピリ?それってどんな?』
それはね、キミが八乙女をこの世界で生きていける様に自分を育ててくれた大切な人だと思うのと同じで、八乙女もまた・・・キミを大切に思っているからだよ。
心の中だけで言って、微笑みだけを愛聖さんに届ける。
この事実は、あの日・・・八乙女の所で打ち明けられた最大の彼の秘密、だから。
何よりも、どんな事よりも・・・八乙女の弱点となる事実で。
なのに八乙女は、僕にそれを託してくれた。
僕にとって、それが八乙女からの最大級の信頼だと思ってるから。
『あの、社長?』
「なんでもないよ。八乙女はもう少し、カルシウムを摂取した方がいいかもね?ってこと」
そう話せば、愛聖さんはクスクスと笑い出す。
「さぁ、今日はもうこれで終わりだから帰ろうか。三月くんも美味しいご飯を用意しながら待ってるよ〜?愛聖さんは支度に都合があるだろうから、僕は廊下で待ってるね?一緒にいてもいいけど、これ以上キミの柔肌は僕には刺激が強過ぎるから」
ジャケットを脱いで肩から羽織らせ、楽屋へ戻ろうかと促す。
そんな僕たちのやり取りを、八乙女がずっと見ている事は、この子たちには内緒にしておこう。
お先に・・・といった視線をチラリと八乙女に送り、愛聖さんの肩を抱きながら僕は歩き出した。