第13章 デビュー会見と、そして・・・
艷めく肌から目を逸らし、無理やり肌に触れさせられた手を振りほどいて、彼はひとり立ち上がって部屋の入口で彼女を振り返る。
お互い何も言わずに、暫くの間ずっと見つめ続けて・・・そして・・・彼は黙って部屋を後にする。
彼女がそっと部屋の窓辺へと動き、そこから花街と外の世界を区切る大扉へ向かう彼の後ろ姿を見守っている。
『ここに売られた時から、私はあなたとは・・・住む世界が違う人間・・・だからもう、こんな所へ来ては行けませんよ・・・どうか、幸ある道を』
誰もいなくなった部屋で、廓言葉を使わずに言って、ひとしずくの涙を見せる。
ー カーット!・・・2人ともいい物を見せてくれたよ! お疲れさん! ー
監督の声に、あからさまに安堵の顔を浮かべる愛聖さんと、それから未だ顔を赤らめたままの壮五くんが監督へと頭を下げる。
「どうやら無事に、終わったようだね」
こっそりと安堵の息を吐いて八乙女に言えば、八乙女も何気ない素振りを見せながらも、その目はさっきとは違う光を浮かべているのを見て、小さく笑う。
八「なにが可笑しい」
「なんでもないよ?ただ、八乙女がそんな穏やかな顔をしているのなんて滅多にお目にかかれないなと思って」
八「・・・黙れ小鳥遊。無駄口を叩いている暇などお前にはない。見ろ・・・戻って来るぞ」
八乙女に言われて視線を戻せば、何かを話しながら僕たちの所に歩いて来る愛聖さんと壮五くんがいて、並び立つ僕たちを見て・・・というか、特に八乙女に深くお辞儀をした。
『八乙女社長、いらしてたんですね。って事は、姉鷺さんと交代するって言うのは本当だったんですね』
「お帰りなさい、2人とも。何テイクもお疲れ様」
壮「すみません、僕のせいで撮影を長引かせてしまって・・・」
『そんな事ないよ、逢坂さん。私だってそれくらい頻繁にあるんだから』
まるで壮五くんを庇うように笑う愛聖さんに、八乙女が瞬時に眉を顰める。
八「佐伯 愛聖。私はお前をそんなお気楽な人間に育てたつもりはない。お前は小鳥遊の元で何を学んでいるんだ。これからはもっと視野を広くして、精進する事だな」
『はい・・・すみませんでした』
やれやれ・・・さっきはあんなに穏やかな目を見せていたと言うのに。
「手厳しいなぁ、八乙女は」