第13章 デビュー会見と、そして・・・
『戻るぞって、別々の楽屋なのに』
楽「いちいちうるせぇんだよ、お前は」
先に行くぞ、と言って楽がスタスタと歩き出す後ろを、何となく着いて歩く。
姿勢よく真っ直ぐ歩く楽の後ろ姿を見て、ふと、思う。
こうやってキレイな姿勢で颯爽と歩く姿って、八乙女社長の後ろ姿にそっくり。
なんてことを楽に言ったら、きっと眉を寄せながら嫌がるんだろうけど。
もし、私の父さんがまだ生きてたら。
八乙女社長のように、自信に満ち溢れている背中を見ることが出来たんだろうか。
母さんの話だと、父さんもスラリと背が高くてスマートな人だったんだってのは、子供の頃に聞いた。
母さんより少しだけ年が上だったから、八乙女社長や小鳥遊社長と同じくらいなのかな・・・なんて、重ねて想像してみたりした事もないわけじゃない。
紡ちゃんが社長のことを “ お父さん ” って呼ぶのを見かける度に、少し・・・羨ましかったりもして。
って言っても、私の父さんは私が物心着く前に亡くなってしまったから、どんな顔だったのかさえ・・・覚えていないんだけど、ね。
母さんが愛聖のおとうさんはね・・・って話をする度に、とても幸せそうに話すのを見ていて、それがどれだけ父さんの事を好きだったのかは伝わって来て。
そんな母さんを見て、私もいつか、そんな風に想える人に出逢いたいと思ったりして。
そう言えば子供の頃、そんな母さんに、父さんの事まだずっと好き?って聞いた時。
母さんはちょっとだけ困った顔をして、少し考えてから・・・そうだね、って笑ったのを見て、きっとその困った顔は父さんがもうこの世にいないのに私がそんな事を聞いたからなんだって思ったけど。
あの時の母さんの表情は、なにを意味する表情だったんだろう。
いずれにしても、その母さんもいまは・・・いない。
楽「おい。お前はどこまで着いて来る気だ?」
立ち止まる背中に視線を戻せば、楽がニヤリと笑って私を見る。
『あ。考え事してたら、自分の楽屋・・・通り過ぎちゃった・・・』
楽「アホか、お前・・・じゃ、また後でな」
軽く手を上げる楽に私も手を振り返して、通り過ぎてしまった楽屋への通路を引き返した。