第13章 デビュー会見と、そして・・・
『こんな早ぅ時間に、なんの騒ぎかと思ったら主さまでありんしたか・・・わっちは今日も買われていんすから、お相手出来んせんよ』
台本通りのセリフを口にしながら、店先で大騒ぎをする人物に流し目を送る。
「それでも、その客とやらが来るまでは空いてんだろうが!」
『わっちは、日に一人しかお相手はしないんでありんすぇ。どうぞ今宵は、他の者を・・・あぁ、お見えになりんした。旦那様?首が伸びてしまうほど、お待ちしておりんした』
騒ぐ人物の後ろに視線を投げて、優雅に、ゆっくりと微笑みを浮かべて見せる。
『すぐにお部屋のご用意をしんすがら、僅かに待ってておくんなまし』
側に張り付く禿に、先に部屋へ行って準備をするよう視線だけでそれを促す。
『さぁ、旦那様。どうぞこちらへ』
ー カーット! ー
監督の声に、ほっと胸を撫で下ろす。
現代風にアレンジされた時代物とは言え、遊女の話す言葉はなるべくそのままにしたいからという監督の意向で、私は油断すると舌でも噛んでしまいそうなセリフ回しに眉根を寄せる。
普通に言い回せばサラッと言えてしまうセリフだろうに、ゆっくりと優雅に話せ・・・だなんて、なかなか難しい。
楽「お前、なかなかサマになってんじゃねぇの?もしかして前世は遊女か?」
店先で騒いで着いていた膝を払いながら、楽がニヤリと笑う。
『楽・・・それって褒めてるつもり?』
楽「さぁな?」
もう!と胸を叩いて楽に押しやりながら笑って、次のシーンは・・・と頭の中を切り替えようと目を閉じれば、その様子を見ていた千葉さんが豪快に笑いだした。
「僕は、なかなか頑張ってると思うよ?時代物初挑戦でいきなり遊女役だなんて大変だろうに」
『千葉さん・・・ありがとうございます!あっ・・・』
見るからにお偉い人だと分かる衣装を纏う立ち姿に、大きく頭を下げると、チャリン、と簪が抜け落ちてしまった。
『あぁ・・・またヘアメイクさんに付け直して貰わなきゃ・・・』
今までも、ついうっかり大きな所作をしてしまい、その度に直して貰う・・・という事があって、そろそろ頼みにくいかもと小さく反省をする。
「これは元気な遊女さんだ。どれ、貸してみなさい。僕がやってあげよう」
私が拾い上げた簪を手のひらからすくい取り、千葉さんがそれを髪に挿してくれた。