第12章 小さな亀裂
千からの電話を終えてから、どれくらいの時間が経ったのか部屋に取り付けてある時計を見れば、時計の針は千が到着するのに程よい時間を示していた。
千が到着したら、ここはお開きになるから準備しとかないと。
『一織さん。すみません私ちょっと化粧室へ行っておきたいので、その間だけ三月さんをお願い出来ますか?』
まだ膝枕状態で寝てしまっている三月さんに視線を落としながら言えば、一織さんが向かい側から私の方へと移動して来た。
一「兄さん、そろそろ起きて下さい」
声を掛けながら一織さんが三月さんを起こしあげて、今のうちにどうぞ、と私に合図をくれる。
『すぐ戻りますから、お願いします』
一「女性が身支度をするのに時間が必要なのは分かっていますよ。なので、慌てなくて大丈夫です」
そう返してくれる一織さんにもう一度お願いをして、私はトートバッグの中からミニバッグを持ち出して部屋の外へと出た。
とりあえず化粧室へと向かい、手洗いを済ませて極々簡単にメイクも直す。
それから財布の中にクレジットカードがちゃんと入ってる事を確認して入口の受付へと向かい出せば、ちょうど通路の角を曲がってくる千の姿が見えた。
『千!思ってたより早かったんだね。もう少し時間が掛かるかと思ってた』
駆け寄りながら言って千の前に立てば、千は長い髪をふわりと揺らしながら笑った。
千「愛聖からSOSされたら、僕だって車カッ飛ばして駆け付けるよ。あ、でも道交法違反はしてないから大丈夫」
『それは大前提でしょうに・・・』
苦笑を見せながら言えば、千もまた笑う。
千「それより、愛聖はどこへ行こうとしてたんだ?」
『それは・・・ちょっと、まぁ・・・野暮用?』
お財布が入ったミニバッグを掲げて見せれば、千はその私の手を静かに下げた。
千「その心配ならいらないよ。メンバー的にも、きっとモモが無理やり誘ったんじゃないかと思って先に支払いをって僕も考えたんだけど、既にちゃんと済ませてあったよ」
『え?!既にって、誰が・・・』
千「モモだろ?きっとモモは、トイレに行ってくる・・・とでも言って部屋を抜け出して会計を済ませたんじゃないか?」
千にそう言われて、そういえばさっき百ちゃんがトイレー!とか言いながら1度部屋から出た事を思い出す。
『じゃあ、もしかしてあの時に・・・』