第12章 小さな亀裂
百「ちょーっと!なんで逃げるの?」
『えっと、なんとなく?』
百「なんで疑問形?!」
『あはは・・・なんでだろ・・・』
百「なんにもしないって!」
まるでユキにでもお願いしてるかのように百ちゃんが言うから、うっかり、仕方ないなぁ・・・なんて言いそうになっちゃうけど。
いまはそんな事を考えてる余裕もなければ、ヒマもない。
『いやいやいや。なにか分からないけど、あ~んな事するって言ってたよね?!』
三月さんたちとのやり取りの中で、早く迎えに来ないとどうなるか分からない的な感じで!
百「そうは言ったけど、いいじゃん減るもんじゃないし···膝枕くらい」
『そういう問・・・え?膝枕???』
予想外の言葉に、思わず固まってしまう。
膝枕って・・・膝枕、だよね?
『···なんで?』
百「だって前にユキんちでマリーがユキにそれやってんの見て、いいなぁ!って思ったんだもん」
千の家で私が?!
『してないしてない!千に膝枕なんてしてな···』
あれ?
した、かな?
いや、でもあれはしようと思ってたんじゃなくて、千の家にいる時に床にペタンと座ってテレビ見てたら勝手に千が転がって来て。
『結果的には、してるかも・・・』
百「でしょ?!だから、オレもオレも!お願い!」
『そんなにお願いされても困るよ。だって、そう畏まってお願いされたら、その・・・なんか妙に恥ずかしいし』
ピンポイントで膝枕をお願い!とか言われても、よっしゃ、ハイどうぞ!なんて言えるわけないよ。
百「じゃあ・・・今オレは誘拐犯だから最終手段ってコトで!題して、殿様作戦!!」
『殿様作戦って、なに?!』
百「そりゃもちろん・・・良いではないか、良いではないか!」
時代劇でよく見る怪しい殿様だ!!
『お、お戯れを・・・』
それでもジリジリと下がっていけば、その分の距離を詰めるように百ちゃんが楽しそうに近付いて来る。
部屋の中をグルグルと逃げ回り、決着の付かない膝枕争奪戦に痺れを切らしたのか百ちゃんが大きく1歩を踏み出した。
でもその足元には、百ちゃんが脱ぎ置いたキャップがあって。
百「あ、ヤバっ!」
『危ない!!』
スルッと足を滑らせ傾く百ちゃんを咄嗟に引き寄せ、その勢いで自分も同時に倒れ込んでしまう。