第12章 小さな亀裂
百「面白い映画だったよね!」
『そうだね。でもびっくりしちゃった!だってスタッフロールに千の名前が流れてるんだもん』
百ちゃんに連れて来られた映画は、ちょっとしたアクション系の内容で。
初めは私にもついていける内容だろうか?と心配はしたけど、そんなの全然関係なくて、いつの間にか瞬きを忘れてしまうほどのストーリーの流れに身を預けていた。
百「オレはユキがこの映画に関わってること知ってたけど、あんな感じの仕事してたってのは分からなかったかも···もう、ユキったら食べるのも忘れるほど働き者!」
『千の仕事にのめり込んだら寝食忘れちゃうのは病気だから仕方ないよね。あ、もしかしたら千ってサイボーグだったりして』
百「ありえる!」
映画のパンフで口元を押さえながらも、2人でゲラゲラと笑う。
百「良かった・・・やっと、ちゃんと笑ってくれてる」
ひとしきり笑った後、百ちゃんが目を細めながら私を見る。
百「さっきまではさ、こう、なんて言うか・・・思い詰めてるっていう感じで、表情は笑ってても目が笑えてないっていうか、さ?」
百ちゃんに言われて、自分でも確かにそうだったかも知れないと息を吐く。
百ちゃんが何か話しかけてくれて笑わせてくれても、心の片隅に刺さったトゲがチクリと痛みを作っていて。
だけどいま、それを忘れてしまうほど笑っていて。
『ありがとう、百ちゃん・・・なんかちょっと、元気出たかも』
百「えぇ・・・ちょっとだけ?」
『あはは・・・いっぱい元気になったよ』
なら良し!と私にピースを掲げて、百ちゃんがまた笑った。
百「じゃ、あとはお楽しみの肉!肉食べに行こうぜ!」
『百ちゃんって、ホントお肉好きだよね。あ、じゃあお店はどこにする?この近くで個室ある所とか、ネットで探す?』
言いながらスマホを出せば、タイミングを見計らったかのようにスマホが震え出す。
『あっ・・・』
三月さんから・・・
百「ん?どうかした?」
一瞬動きが止まるのを見た百ちゃんが、私の手の中にあるスマホの画面を覗き見る。
百「三月って、アイドリッシュセブンのメンバーじゃないの?オレの事は気にしなくていいから電話出てあげなよ?」
ね?と言われて、ほらほら切れちゃうよ?と言われると、もう···出るしかないのかな?と画面をタップした。
『···もしもし』