第12章 小さな亀裂
「伝言?それなら直接オレに連絡、あ···」
いつもなら、ちょっとした連絡ならオレに直接来るのに···と思いかけて、さっきの出来事が頭を過り言葉を切る。
万「三月くんたちが社長とミーティングしてるだろうからって事務所に連絡して来たみたいなんだけど、電話を取ったのがたまたま俺だったから」
さりげなく察したのか、万理さんが自分が伝言を受けた経緯を説明しながら後ろ手にドアを閉めた。
「それで、伝言って?」
万「愛聖からの伝言はね、三月くんに今日の夕飯は用事が出来たから自分の分は大丈夫だって伝えて欲しいって」
夕飯、いらねぇって···さっきの事もあるし、もしかして顔を合わせるのが嫌になったとか?
もしそうだとしたら、何がなんでも早く謝らねぇと!
「万理さん。夕飯いらないって、愛聖はどこに行ったんだ?」
とりあえず居場所だけでも知ろうと万理さんに聞けば、オレの前にナギが立って振り向きざまに珍しく真剣な顔を見せて、また万理さんの方を向いた。
ナ「バンリ、ちょっと···いいデスカ?」
万「ん?なに?」
ナ「···失礼」
万「え、あ、ちょっとナギくん?!」
ナギが万理さんとの距離を縮めて、万理さんの胸元へと顔を埋める。
「ナギ、なにやってんだ!万理さん困らせるなって!」
慌てて万理さんからナギを引き剥がせば、ナギはナギで驚きの表情でオレを見る。
ナ「NO!ミツキ、誤解デス!···見てください、バンリのここに···うっすらとですがファンデーションの跡が。そして今、ワタシは確信しました!バンリ、これはマリーのものデスね?」
「そんなの分かんねぇだろって」
唐突なナギの発言に、なに言ってんだよと呆れたため息を漏らす。
ナ「ワタシには分かります···バンリから、マリーの甘い香りがしました」
どんな嗅覚してんだよ!とツッコミを入れようとして、急に視界が遮られて藻掻く。
「ナギ!イキナリなにしてんだよ!」
ドンッ!と突き放して見れば、ナギは楽しそうに笑いながらオレを見た。
ナ「バンリ?もしかしてワタシのマリーを抱きしめましたね?」
万「えーっと···どうだったかなぁ?」
ナギの質問に万理さんが笑顔のままでナギを見返す。
いーや!その前に!
「こらナギ!愛聖はナギのじゃねぇぞ!」