第12章 小さな亀裂
『街に出たら偶然オフ中のRe:valeの百さんに会って、それで食事に誘われたので···帰りは遅くはならないと思いますけど、三月さんに連絡しないとって思って』
いつもの万理との会話なら、百ちゃんの事を百さんだなんて言わないけど。
いまはこの会話こそ、百ちゃんに相手が万理だと知られたらいけないんだと思って、そう、呼んだ。
万 ー わかった。それを三月くんに伝えればいいんだね? ー
『お願いします』
万 ー 相手が百くんだから大丈夫だとは思うけど、あまり遅くならないようにね? ー
『じゃあ、そういう事で···』
通話を終えてから、ふぅ···と息を吐く。
万理が出ない事を考えながらかけた電話に、万理が出ちゃうとか。
ちょっと慌てたよ、さすがに。
百「連絡出来た?」
『あ、うん、大丈夫』
百「じゃさっそく映画から行こっか!」
『映画?!』
さっき百ちゃんはご飯って言ってなかったっけ?!
百「お腹もペコペコだけどさ!でもせっかくマリーと堂々たるデート出来るならいろいろ楽しみたいじゃん!だからマリーが電話かけてる間に上映状況とか調べてたんだ。って事で···LET'S GO!」
『あ、ちょっと百ちゃん?!』
善は急げ!と言わんばかりに私の手を引いて百ちゃんが駆け出したと思えば、遠くから走ってくるタクシーを止め乗り込んだ。
百「このままずっと走っててもいいんだけど、それじゃマリーが疲れちゃうから。あ、でもせっかくだからこの手はこのまんまね?」
ちょこんと掲げた手を新たにキュッと握り直す百ちゃんがイタズラっぽく笑う。
百「ユキがいたら怒られそうだけど、いまはユキもいないし。だから今はオレがマリーを独り占めターイム!」
『独り占めって言われても···』
百「よく分かんないけどさ。なんか嫌な事があって気分転換してたんだろ?だったら、その嫌な事はオレが楽しい事で塗り替えてあげるから。だから早く、いつものマリーに戻りなよ?な?」
百ちゃんらしい元気いっぱいな笑顔に釣られて私も笑い返す。
百「ちなみにご飯は···肉で!」
『了解です。今日は百ちゃんにお任せします』
偶然会えたのが百ちゃんで良かった。
そんな事を思いながら、流れていく窓の外を見つめていた。