第12章 小さな亀裂
百「どうしたのマリー?」
スマホを握りしめたまま一向に連絡をしようとしない私に、百ちゃんが首を傾げる。
百「マリーが連絡しづらいなら、オレが電話に出てもいいよ?」
貸して?と私に手を伸ばす百ちゃんに、慌てて大丈夫だからと1歩下がる。
『私が事務所を出る時に、みんなは社長たちとミーティング始めるところだったから···その、だ、誰に連絡しようかなぁ?って、考えてた所だから』
みんなが社長とミーティング中なのは、本当。
そんな時に、電話をかけてしまうのは失礼だし。
百「相手がミーティング中かもなら、事務員さんに伝言頼むとかは?」
『事務員さん···?』
百「事務所でミーティングしてるなら、事務所に電話すれば誰かしら電話くらい応対してくれるでしょ?」
事務所に電話···事務員さんが応対···
そうか、そうしてみよう。
この時間まだ事務員さんはたくさんいたし、そうそう万理が電話を取るなんてないだろうから。
スマホの画面に表示される時間を見て小さく頷きアドレスから事務所の番号を辿って指先で触れる。
機械的なコール音が鳴り出し、そして···
ー お電話ありがとうございます。小鳥遊プロダクション大神がお受け致します ー
『···えっ?!ば、ンッ』
ば、万理?!
電話を取った相手が万理だと分かり、思わず驚きの声を上げそうになって口を押さえる。
百ちゃんが側にいるのに、まさか万理の名前を口に出す訳には行かないから。
ー もしもし? ー
通話の向こう側で疑問気な声が聞こえ、慌てて取り繕う。
『あ、お、お疲れ様です、佐伯です!』
万 ー お疲れ様です、って、愛聖? ー
『あ、えっと···そう!社長はまだミーティング中ですか?!』
万 ー ですか?!って、なんでそんなによそよそしいんだか···ま、社長はまだみんなとミーティング中だよ?それがどうかした? ー
やっぱりまだ、三月さんに取り次いで貰う訳には行かないか。
『社長っていうより、三月さんに言付けをお願いしたいんですけど、いいですか?』
万 ー 了解。で、なんて伝えればいい? ー
『それなんですけど···ちょっと用事が出来たので今夜の夕飯は私の分はなくていいって事をお願いしたいんです』
万 ー 用事?それって1人でってこと? ー