第12章 小さな亀裂
『それより、百ちゃんが貴重なオフの時に街でナンパしてるなんて知らなかったなぁ。なんか声掛けられたのが私でごめんね?』
せっかくかわいい誰かと楽しいお茶の時間を過ごす予定だっただろうに、と付け加えて言えば、途端に百ちゃんは慌てだした。
百「違うって!今のはマリーだって分かってたから声掛けたんだよ?!」
『え~···本当?だって妙に手慣れてたっていうか』
百「ホントホント!オレを信じて!ユキに誓って、そんな誰でもいいようなナンパなんてしてないから!」
両手のひらをフルフルとさせながら、百ちゃんが私を見る。
なんで···誓うのが神様じゃなくて、千···なんだろ。
まぁ、そこは百ちゃんらしいというか。
『大丈夫、百ちゃんがそんな軽くてチャラチャラな人だなんて思ってないから。ちょっとビックリのお返ししただけだよ』
ペロッと舌を見せて笑うと、百ちゃんは、それなら良かった···と安堵する。
百「あ、そだそだ!オレはともかくマリーはなにしてたの?買い物したりだったらオレも付き合うよ!」
『あー···私は···気分転換、かな』
百「気分転換?なんか嫌なことでもあったの?」
『まぁ···ちょっと、ね。でも大丈夫!死ぬほどの事じゃないから、美味しいものでも食べて、楽しいことして、あとは寝たら忘れる!』
そんな事くらいで忘れる事が出来るわけないけど···と思いながらも、百ちゃんに詳細を話す訳には行かないから笑って誤魔化す。
百「美味しいもの食べて、楽しいこと···か。ねぇ、その全部オレと今から片付けない?どう?」
『全部って、え?!今から?』
百「そう、今から!そうと決まればまずは···腹ごしらえだな!マリーはなに食べたい?っていうかオレ、肉食べたい!」
『そう言われても、外でご飯食べるなら連絡入れないとだから』
百「じゃ、連絡すればオッケーじゃん?」
ね、早く早く!とワクワクし始める百ちゃんを前に、私は複雑な気持ちでスマホを取り出した。
私の分は大丈夫って言えばいいだけなのに。
でもその相手は三月さんで。
さっきのみんなの様子からして、そんな事すら言いにくくて。
けど、外で済ますならちゃんと連絡しないとだし。
どうしよう···