第12章 小さな亀裂
当てもなくブラブラとしながら、1軒のブティックの前で立ち止まる。
そういえばこのお店って、デザインがかわいいって思う服が割とリーズナブルな値段で売ってるんだよね。
そんな事を考えながら、ガラスの向こうでポーズを取っているマネキンの服を眺める。
これからの季節にピッタリな涼し気なデザインが、胸を擽る。
気晴らしに1着くらい···そう思いつつも、クローゼットにはまだ八乙女社長から送られてきた服がたくさんあるから、と1歩下がっては···また眺めてみたりもして。
だけど、今すぐどうしても欲しい!っていう訳ではないから、きっと今日はこの服には縁がなかったのかな?なんて小さく笑う。
他のお店も見てみようかな?なんて考え出した時、突然ぽんっと背後から肩を叩かれドキリとする。
「かーのじょ!こんな所でなにしてんの?ひとり?もし良かったらオレとお茶しちゃわない?」
軽い感じの声掛けに、もしやナンパ?なんて思いながら振り返り···
『すみません、そういうの困りま···百ちゃん?!』
こういうのはハッキリと断らなきゃ!と意を決して言いながら振り返れば、そこに居たのは見知った笑顔で私を見る人物で。
百「にゃははっ!びっくりした?」
『したよ!まさかこんな所でナンパされてる?!なんて思ってたから!』
びっくりさせないでよ~!と笑いながら返せば、百ちゃんは、ナンパって言ったら当たらずとも遠からずなんだけどなぁ?なんて笑い返してくる。
『それより、千は?一緒じゃないの?』
百ちゃんがいる時は近くに千が。
千がいる時は、近くに百ちゃんが。
だいたい、いつもそういった感じで一緒にいる事が多いから、つい、百ちゃんの周りに千の姿を探してしまう。
百「ユキなら自分ちに閉じこもって仕事してるよ?オレは集中したいから今日は遊びに来ちゃダメって言われたから、暇つぶしに···えっと、散歩?」
『なんでそこで疑問形?でも、千も百ちゃんも珍しく揃ってオフだったんだ?Re:valeにもオフってあるんだね』
普段の忙しさを考えながら言えば、百ちゃんも極たまにだけどオフはちびっとあるんだよ、なんて言ってまた笑った。