第12章 小さな亀裂
事務所の前の道を早歩きで通り過ぎ街中へと向かえば、あちらこちらでTRIGGERの新曲のプロモーションが流れている。
これほど大々的にTRIGGERの曲だと発表されていたら···もうアイドリッシュセブンの曲です!なんて胸を張って発表は出来ない。
元気いっぱいのアップテンポな曲で、アイドリッシュセブンらしい曲だったのに。
せめてアイドリッシュセブンがちゃんと先に発表出来ていて、それでTRIGGERがその曲をカバーしましたとかなら話は変わっていたんだろうけど。
八乙女社長とウチの社長の関係性からして、そんな夢のような事はない。
そもそも、私がそんな事を考えていい立場でもないけど。
どれだけ街の中を歩いても、気分が上がるような出来事は見つからない。
こんな時、普通の女の子だったら。
パァって買い物したり、お友達とご飯食べに出かけたり。
映画とかカラオケとか、なんかそういう楽しめる場所に繰り出して、騒いで···気分転換とかするんだろうけど。
友達···か。
一括りに友達と考えれば、私って···友達いないんじゃ···
この世界に入る事が決まった時、八乙女社長がそれまでの同級生との関わりはやめろって言って、それ以来みんなと疎遠になってしまったし。
この世界では、ライバルと呼ばれる人はたくさんいるけど···友達と呼んでもいいような人は···いない。
千や百ちゃんは、友達というより昔馴染みって方がしっくり来るし。
楽たちは···
いまは楽の事を考えるのはやめよう。
とりあえず今は、普通の女の子がするような事をしてみよう。
そしたら少しは···沈みきった気持ちが回復するかも知れないし。
そうなると、この街中で出来ることってなれば。
うん、あれがいいかな?
クルッと周りを見渡して、最初に目に付いたお店へと体を向ける。
時間なら、いくらでもあるし···今までやった事ないものをしてみるっていうのもアリかも。
少しでも現実から離れたいと思う一心で、私はその1歩を踏み出した。